第18話 試合が終わり、再生が始まる?
「……えっ?」
大歓声が上がった。
先輩も、僕も視線をスタジアムに向ける。
大喝采の中、ネタフリ・ウチがゆっくりとセカンドベース付近を走っていた。
三塁側を見ると、桃林をはじめとしたカブスナインががっかりとした様子で引き上げてきている。
一体、何が起きたんだ?
オーロラビジョンに映像が映る。リプレイのようだ。
甘く入った桃林のフォークボールをウチがフルスイング、ボールは一直線にレフトスタンドに飛び込んだ。
逆転のツーランホームラン!
ボイスターズのサヨナラ勝ちだ。
しばし、唖然とグラウンドを見ていた先輩だったが。
「やったー!」
おもむろにガッツポーズを繰り出し、僕の手をとる。
「私の目に狂いはなかったわ! 時方君と、黒冥さんこそ、勝利の使者だったのよ!」
いやいや、ついさっきまで「滅せよ」とか「死ねえ」とか言っていたじゃないか。忘れたとは言わせないぞ。
ウチのヒーローインタビューが始まった。
川神先輩が「ウチ、愛してるー!」と叫んでいる。
ウチが打つはずないから、オズボーンが凡退したら世界を滅ぼせと言っていたのに、いい気なものだ。
これが信仰というものなのだろうか。
同意したくないなぁ。
少なくとも、今後野球観戦に魔央を連れていくのはやめておいた方がいいだろう。世界滅亡への敷居が低すぎる。世界の破滅を望む者はいるかもしれないけど、先輩ほど安っぽい理由で世界を滅ぼそうとするものはいないだろう。
ただ、それ以上に武羅夫と武蔵……。
まさかこんな形で死んでしまうとは……。
調子のいい奴だと思っていたが、いざ死んでしまうと悲しい。
例えその原因が本人の煩悩にあって、自分のお金でない税金で楽しんでいた最中の出来事だったとしても、だ。
山田さんが無言のまま、武羅夫の手裏剣と、武蔵の木刀をテーブルに置いた。
これが、二人が生きていた証なのか。何とも切ない。
その山田さんも、さすがに直前まで和気藹々としていた二人がいなくなったことには衝撃を受けたのだろう。押し黙っている。
完全に寝ている魔央といい、テーブル席は地獄絵図だ。強いて良かった面を探すならサービスクルーが外に出ていて無事だったということくらいか。
『ありがとうございました、ネタフリ・ウチ選手でした!』
どうやらヒーローインタビューが終わったらしい。
川神先輩が楽しそうに振り返る。
「あぁ……、二人には悪いことをしちゃったわね」
あっけらかんとした言葉。
先輩、貴方は大物です。
自分で消した二人に対して、そんな軽いノリで「悪いことをしたわね」なんて。
うっかり足を下した後で、「あ、アリを踏みつぶしちゃっていた。ごめんね」くらいのノリである。
まあ、先輩はこういう人だから。
そう思った瞬間に投げかけられた次の言葉に衝撃を受けた。
「でも、ウチの
「えぇっ?」
思わず声が出た。驚いているのは僕だけではない。山田さんも、だ。
「
「カワカミ・テックにいる
IQ300?
いや、そんな天才がいるなら、むしろその人の力を借りてボイスターズを優勝させればいいんじゃないの?
それをしないにしても、相手チームの選手を浄化の光で消し去った方がいいんじゃないだろうか?
いや、あくまで程度問題だよ。
「そんなことしたらバレるじゃない。それに、試合中に使おうものなら、ボイスターズの選手まで消し去ってしまうわ」
「私ならピンポイントで消せるけど」
山田さんがライフル銃を取り出した。
うん、言いたいことは分かるけど、犯罪を推奨する気はないから黙っていて。
「試合中のグラウンドで殺人事件が起きれば、昨日みたいに中止になるかもしれないでしょう。そのような手段を使うわけにはいかないのよ」
「他の手段も使ったらダメだから!」
「……全く、時方君は頭が堅いんだから。まあいいわ、とりあえず須田院を呼ぶわね」
川神先輩が電話をかける。
「もしもし、阿胤? あのさ、ちょーっと室内で二人ほど浄化しちゃって、持っていた刀と手裏剣だけ残っているみたいだけど、何とかならない? えっ、そう? よし、OK! 待っているわ」
どうやらあっさりと合意を見たようだ。
先輩が電話を切ってVサインを向けた。
「20分程度でこっちに来るみたい」
消え去った二人を、復活させられるというIQ300の持ち主・須田院阿胤。
一体、どんな存在なのだろうか……?
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