第16話 世界は再度復活する、だがこれからも?

 何てことだ。

 世界がまた滅んでしまった。



 魔央が酔って気軽な状態になってしまい、そこに川神先輩の八つ当たりからの世界破滅願望のコンボとなるとは。



 しばらくすると声が聞こえてきた。

『世界を救いますか?』

『▶はい いいえ』



 良かった。

 まだ、やり直せるようだ。



 はい、を選んだ瞬間、目の前で始球式が行われようとしていた。


「あれ……?」


 川神先輩がけげんな顔をして、首を傾げる。スコアボードを見たが、そこには何もない。


「良かったわ。いきなり10-0の試合なんて存在しなかったのね」


 先輩は安堵しているけれど、僕の疑問は膨らむばかりだ。


 この、魔央が滅ぼした世界を復活させる能力は、果たしてどんなものなのだろうか。


 これが自由に使えるもの、というほど甘いものではないはずだ。


 回数に制限がある、使うごとに何らかの代償がある、そういった問題があるに違いない。



 また、実際に世界が滅んで、復活したということを知っている人間はどれだけいるのだろう。


 僕はもちろん知っているし、魔央も知っている。


 今の様子を見ていると、川神先輩も滅ぶ前の状況をうっすら記憶しているようだ。


 しかし、後ろを見ると、どんちゃん騒ぎをしている三人は全く覚えていなさそうだ。



 ということは、直接的に滅ぼした者(魔央)、それを復活させた者(僕)、滅ぶきっかけとなる願いを送った者(川神先輩)の三人ということだろうか。

 まだ分からない。



 一回表が再び始まった。


 やり直しになったけれど、南がまた打ち崩されたらどうなるのだろう。


 また、川神先輩が怒って、また魔央が滅ぼしての世界滅亡ループが繰り返されたりしないだろうか。そんなループは嫌すぎる。



「ストライク!」


 だが、それは杞憂だった。


 南はさっきのピッチングは何だったのか? というくらいいいボールを投げていて、松池と野田を三振に、秋田にはヒットを打たれたけれど、マクブレードも三振。


「キャーッ! 南さーん!」


 先輩が黄色い声援を送っているけれど、素晴らしいピッチングだ。



 ただ、カブスの先発投手九条も調子がよくて、ボイスターズは三者凡退。


 南も二回をきちんと抑える。



「今日は投手戦になりそうね」


 先輩が室内へと戻ってきた。


 僕は微妙に距離を置いているけれど、武羅夫、武蔵、山田さんはビールをガブ飲みしていて、注文も好き放題だ。


「私もビールをいただくわ。時方君も飲めば?」


「うーん、どうしましょう」


「心配いらないわ。これは破壊神への接待よ。誰も罪に問われないわ」


 あー、まあ、そうなのかな。


 年齢前飲酒を叩こうにも、魔央を叩いたら、その報復が世界滅亡だからなぁ。誰も叩けないに違いない。


「魔央のことを知っているわけですか?」


「私は政財界のことにも詳しいからね」


 確かに川神先輩は財閥令嬢だ。


 しかし、その割にヤンキー感が強すぎるのは何でなんだろう。


「ということは、僕のことも?」


「対になる者として選ばれたということは知っているわ」


「実は滅んだ世界も直せるらしいんですよ。条件はありそうですけれど……」


「なるほど……」


 先輩はそう言って少し考える。


「つまり、負けそうなら世界ごと滅ぼしてしまえば、ボイスターズは必ず優勝できるというわけね」


「絶対に嫌です」



 そんな、都合の悪い結果になったらリセットしてやり直しなんてことを、実際の世界でやらないでほしい。

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