第15話 初回の惨劇

 一体、何なのだろう?


 不穏なものを感じざるを得ない。今日もまた、何かが起きるのだろうか。



 試合開始まで10分だ。


 今日の始球式はプロゴルファーの高城戸浩たかきど ひろしだ。場内アナウンスによるとかねてからのボイスターズファンらしい。


 男だし、昔からボイスターズファンなら、多分、害はないと思う。



 後ろでは「カンパーイ!」と陽気な音頭が上がっていた。届いたピッチャーでビールを飲みながら、オードブルを楽しそうに食べている。

 まあ、楽しむ分にはめでたいことだ。


「何か気になることがあるの?」


 そんな中、現状では唯一の味方と言えるかもしれない、山田さんが近づいてきた。


「気になるメールが来た。『今日もそんなものを見ようとしているのね、悲しいわ』って」


「あら?」


 山田さんが首を傾げた。携帯電話を取り出して、何かチェックをしはじめる。


「あぁ、それは私のサブアカから送ったメールだったわ。誤送信していたみたい」


「……何でそんなものをサブアカから送る必要があるわけ?」


「何かの必要があるかもしれないじゃない」


「……」


 僕は改めて心に刻み込む。


 山田狂恋やまだ きょうこを信用してはいけない、と。



 いよいよプレーボールだ。


 先発ピッチャー・南がカブスの一番松池に向かう。


 一球目を投じた、ボール。二球目を投じてまたボール。


 松池がフォアボールで一塁に出た。


「ちょっと南さん! ストライクを投げて!」


 バルコニーから身を乗り出して川神先輩が声をあげている。


 しかし、南は二番野田、三番秋田にも連続フォアボール、アッと言う間に無死満塁となってしまった。ボイスターズサイドからすると大ピンチだ。


 四番マクブレードに初球を投じようとする時、僕は異変に気付いた。


 足が震えている?


 南は強気で投げ込むスタイルのピッチャーのはずだ。満塁だからと震えるようなことはない。

 それなのに生まれてきたばかりの小鹿のように足が震えていた。


 快音を残してマクブレードの打球がレフトスタンドに突き刺さった。満塁弾。



「……」


 川神先輩は真っ白に燃え尽きたかのように椅子に座っていた。


 ボイスターズ側が慌てて控え投手に準備をさせるが、そんなにすぐに替えるわけにはいかない。ここは続投だ。


 しかし、やはり何かがおかしい。更に二人にフォアボールを与えて投手交代となってしまった。先輩は完全に放心状態だ。


 後ろはと見ると、魔央が既に横になっている。ジョッキ半分くらいのビールが前に置かれてあったところを見ると、半分で酔ってしまったらしい。


 まあ、寝てしまったのなら、多分大丈夫か。


 残りの二人と山田さんがビールを飲んでいるが、特に会話はない。



 試合開始直後にいきなり交代で出てきたピッチャーも大変だろう。


 ヒットを打たれて満塁にしてしまい、八番、九番は抑えたものの、一番松池に走者一掃のツーベースを打たれてしまった。


 初回でいきなり7点。


 もちろん、まだ終わったわけではないけれど、重すぎる失点である。


 更にトドメを刺すがごとく、野田が四球の後、秋田がホームランを打った。


 10-0。



 川神先輩が叫んだ。


「こ、こ、こんな世界、認められるか! なくなってしまえー!」


 あぁ、キレちゃった。


 まぁ、スイートルームで観戦していて、ここまで悲惨な試合展開だと仕方ないかなぁ。



「はーい、なくしまーす!」



 魔央がノリのいい声で反応した。


 ハッと背後を見ると、赤くなった顔でニコニコしながら右手を高くあげている。



 ま、まさか……。



 そのまさかだった。


 突然、衛星軌道上に現れた巨大隕石が地球に衝突する。


 地球は木っ端みじんに砕け散る。



 世界は滅亡した。

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