第14話 スイートルームへ
護衛共は無駄遣いという感覚がない。「安全第一だ」という理由で、何と東京から横浜までタクシーを使って移動すると言い出した。大型タクシーを呼んで移動を始める。
午後5時過ぎに横浜スタジアムに到着した。
「あれ、今日も来ているの?」
入り口近くで木房奈詩を発見した。昨日の今日でまた球場に来ているとは。
「時方様も性懲りもなく来たのでありますね。しかも、連れが増えているであります」
という、木房さんの視線は山田さんに向いている。両者の間でバチッと火花が散ったような気がしたけれど。
「ちょうどいいであります。本日の敗戦チーム側のファンで荒れている面々を浄化するので、手伝いをしてほしいであります」
「えっ、それはまずくない?」
僕は真面目に突っ込んだ。
木房さんは空中に黒い染みを広げて相手を飲み込む形で消し去るから、彼女が犯人だとは分からない。一方、山田さんはダイレクトに銃を撃つ。誰の目にも犯人が丸わかりだ。
「……条件次第ね」
「相変わらずがめつい奴であります。後で携帯にメッセージを送っておくであります」
「了解。いい連絡を待っているわ」
「おい」
全く関係ないとばかりに了承した。
どこのテロリストだよ、君は。
「川神先輩はどこに行ったのでしょう?」
一方、魔央は川神先輩を探してきょろきょろとしている。
確かに、そろそろ来てもおかしくないはずだけど。
「お連れ様なら、既に入られておりますが」
中の人に確認すると、上の方を指さされた。
どうやら、先輩はスイートを長時間かけて堪能するつもりらしい。
五人でゾロゾロ中に入っていくと、奥のバルコニーでグラウンド風景を眺めながら先輩がノートパソコンを操作している。
「早いですね。何を調べているんですか?」
出場予定選手の成績などのデータを調べているのだろうか。
ファンの中には、こういうデータにとことん詳しい人がいるからね。
「カブスの選手に弱みがないか、掲示板を調査しているのよ」
「よ、弱み……?」
「そうよ。昨日の仕返しもしなければならないから、今日は徹底的に相手をやじって精神を痛めつけてやるわ」
ダメだ、この人。
滅茶苦茶逆恨みしている。
七使徒じゃなければ、木房さんのデリート対象に入りそう。
というより、この人、本当に『信仰』を司っている人なのだろうか。信仰って一体何なんだろう。
後ろを見ると、武蔵と武羅夫の二人がメニューを広げている。
この席では一流レストランのシェフの料理を堪能でき、ドリンクサービスもついている。一流ホテルに所属しているサービスクルーがつきっきりで面倒を見てくれるという触れ込みであるが。
「まずはこのオードブル。で、ビールをピッチャーで!」
「いぇーい!」
「コラコラコラ!」
自分のお金じゃないからって、気軽に頼みすぎだろ!
あと、ビールを頼むな! ここには成年者は川神先輩しかいないんだから!
魔央も「いぇーい!」とか叫ぶな! もうちょっと破壊神らしくしなさい!
「何だよぉ。悠、おまえ、口うるさい母ちゃんみたいなことを言うなよ。盛り下がるわ~」
「全くね。だけど、そういう時方君も好きよ」
「……君らがいい加減過ぎるんだよ」
そうこうしているうちにスタメンが発表され、ビールとオードブルもやってきた。
みんながワイワイやり始めたのを見ると、僕もちょっと参加しようかなという気になってくる。
その時、携帯が震えた。
何か来たのかなと思って手に取った。
発信源は不明だけどメッセージが届いていた。
『今日もそんなものを見ようとしているのね、悲しいわ』
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