第12話 朝食に悲恋バナを添えて

「いただきま~す」


 10分後、食堂で魔央まおがドーナッツを頬張りながら、キャラメルクリームホイップフラペチーノデストロイヤー風味シェイクを飲んでいる。


「以降、この俺、服部武羅夫はっとり たらお佐々木武蔵ささき むさしが魔央ちゃんを守り抜くからよろしくな!」


「モグモグ。ほほひふほへはひひはふ(よろしくおねがいします)」


 食べながら腹話術のように挨拶をしている。




 どこまでアテになるのか分からないけど、敵意はないようなので放っておこう。


「ほほひほほはひほーふへふほ」


 と、山田さんを指さして言っている。「この人も大丈夫ですよ」と言っているようだ。


 正直、ぶっちぎりで危険人物だと思うけど、とりあえず婚姻届とか突き付けてこない分には害はない。来る度に玄関で銃撃戦をやられるのも困るので、やはり通過していい扱いにしておくべきだろう。


「とすると、木房奈詩さんもそうしておくべきだろうね」


「女ばかりじゃないか」


 武羅夫が突っ込んできた。


「悠、貴様、魔央ちゃんという許婚がありながら、こんな美人とも仲良くなっていて、どういうつもりなんだ!?」


「いや、そんなことを言われても……」


 二人とも、というか、川神先輩も含めて僕から誘ったわけじゃないし。


「高校時代のおまえはどこに行ってしまったんだ? 新居千瑛を死なせてしまったことを後悔していた、あの時のピュアなおまえは!?」


「ひはへへひはっは?」


「魔央、食べ終わってから話そう」


 コクコクと頷いて、リスのように頬張った食事を飲み込み始める。


「悠さん、友達を殺してしまったんですか?」


「殺してないよ!」


「でも、山田さんをいじめていた人達も殺したって……」


「違う! 山田さんも頷かないで! 千瑛はともかく、その三人は偶然、僕と何かあった翌日に死んだだけだから!」


「千瑛はともかく、ということは千瑛さんという人に関しては心当たりがある?」


 魔央がしつこく食いついてくる。


「そこから先は俺が説明しよう。新居千瑛というのは、悠の小学校からの幼馴染で、二人はまあまあいい感じだったらしい。中学三年まで登下校も一緒にしていて、しばしば一緒に遊びに行っていた」


「ま、まぁ……それは事実だ」


「それで中学三年の夏休みに悠はこう告白した。『一緒にAラン高校に行こうね』と。しかし、彼女は淡い微笑みを浮かべるだけだった。そう! 彼女はその時、急性白血病にかかっていたのだ!」


「急性白血病?」


「そうだ。急性白血病は今なら治る病気のはずだ。しかし、新居千瑛を襲った白血病は普通の治療が全く効かない極めて特殊なものだった。八月末に発症した新居千瑛は、十月に死去した」


「……」


「翌年の四月、悠はSラン高校の門に一人たたずみ、桜を見上げた。その舞い散る花びらに千瑛の笑顔が重なった。以降、『僕は恋愛が怖くなってしまった』とか言っていたくせに大学入ったらこれか!? 山田さんに木房さんだとぉ?」


「だから、僕が声をかけたんじゃないって言っているだろ!」


 武羅夫のツッコミに僕がツッコミを返している。


 それを傍観していた魔央が唐突に「あれ?」と首を傾げた。


「でも、悠さん、千瑛さんとAラン高校に行く約束をしたのに、Sラン高校に行ったんですね?」


「あぁ、まあ、千瑛がいなくなって一人で勉強する時間が増えたから、成績が良くなったんだよね……。それで先生から『これならSラン高校に行けるぞ』って言われて」


「普通、そこは約束した高校に行くものではないんですか?」


「そうだよなぁ。俺もそこは気になっていた」


 あれ、何で?


 何で、破壊神と街を忍者装束で練り歩く奴に文句言われないといけないの?


「つまり、悠さんは千瑛さんを死なせてしまって、そのおかげで行く高校のランクも上がってしまったわけですね」


「僕が、いい高校行きたいから千瑛を死なせたみたいに言うのはやめてくれる? 当時はね、本当に悲しかったんだよ」


 気づいたら、いつの間にか魔央は朝ごはんを食べ終わっていた。


 何で朝食の時に、こんな話をしなければいけないんだ?

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