第11話 届け、魔央の朝ごはん

作者注:凄腕ワーバーの名前を吉利箱坊きちり はこぼうに変更しました。



 僕は唖然と、玄関先での爆発と吹き飛ぶ吉利さんを眺めていた。


 ただ、ここ三日こうした滅茶苦茶な出来事が当たり前のように起きている。「今度は何なんだ?」くらいのことにしか感じられなくなっていた。アクシデントに関して不感症になりつつあるようだ。



 モニターの中では、影のようなものが動いている。


 僕は山田さんを見たが、彼女は「知らないわよ」という顔だ。


 やがて影が二人の男の形を取った。一人は青白い袴姿はかますがたで、もう一人は濃紺の忍者装束をつけている。


『ふ~、どうやら間に合ったようだ』


『うむ。魔央様と悠様に近づく者を、人知れず排除するのが拙者達の役目』



 あぁ~。


 一昨日、山田さんが護衛の忍者を全員倒してしまったから、別の護衛が送られてきたわけか。あるいは一昨日は何らかの理由でいなかったのだろうか。


 しかし、君らが倒したのは別に侵入者でも何でもないワーバーの人だったわけなのだが。


 あと、人ん家ひとんちの前で、爆発起こすんじゃないよ。


 ついでに「人知れず」とか言っているけれど、ばっちりモニターに映っているから。



「おはよう」


 僕は声をかけてみた。


 二人がサッと距離をとって、お互い腰のものに手をあてる。袴姿の男は二本差しで、忍者姿の男は苦無くない煙幕弾えんまくだんを持っているようだ。


「君達、新しい護衛の人?」


『い、一体、どこから拙者達を見張っているのでござるか!?』


 二人とも狼狽している。もしかして、カメラがあることを知らないんだろうか。



 とりあえず中に入れようと思ったら、ヒューッと何か落ちるような音がしてきた。


『あっ、曲者め!』


 忍者姿の方が叫んだ。


 何と、吹き飛ばされたはずの吉利箱坊が上空から降下してきて、そのまま再度インターホンを押したのだ!


れ者めが!』


 二人が吉利さんを再攻撃しようとする。これはまずい。


「君達! その人は魔央まおのご飯を持ってきたんだから攻撃しなくていいよ!」


 僕は慌てて叫んで、開錠した。


 魔央のご飯、という言葉に二人はビクッと反応し、そのまま金縛りに遭ったかのように制止した。どうやら、魔央のご飯に何かがあると大変なことになるということは理解しているようだ。


「時方君、怪しい奴がいるのに、玄関を開けるのは不用心じゃないかしら?」


 山田さんが突っ込んでくるけれど、君にだけは言われたくないよ。



「ありがとうございました!」


 吉利箱坊から魔央の朝食のキャラメルクリームホイップフラペチーノデストロイヤー風味シェイクとドーナッツを受け取り、テーブルの上に置いた。


 その頃には謎の二人組も食堂に入ってきている。


「とりあえず君達が新しい護衛なんだね?」


「はっ、拙者、佐々木武蔵ささき むさしと申す。二岩一流にがんいちりゅうの使い手でござる。少々髭が伸びているのは勘弁くだされ」


 剣士風の男が言う。言われてみると無精ひげが目立っている。しかし、それ以前にまげに袴という姿が目立ちまくるから、顔の情報は全く入ってこない。


「俺は服部武羅夫はっとり たらおだ。甲賀流と伊賀流の両方の血筋を引く、現代忍者のエリートだ」


「……あ、おまえ、武羅夫じゃん。忍者だったの?」


 忍者装束で気が付かなかったけれど、彼は高校時代三年間同じクラスにいた服部武羅夫だった。特別仲良しというわけではなかったけれど、まさか忍者だったとは。


「フッ、気づかれてしまったか……」


「……自分で名乗っておいて、気づかれたも何もないと思うけどね」


 もし、別名を名乗っていたら、忍者装束のインパクトが強すぎるから気づかなかったと思う。自分から名乗っておいて何をかいわんやだ。


「……見抜かれてしまったからには仕方ない。おまえが選ばれし存在だということで、高校の時から人知れず護衛をしていたのだ」


「そうだったんだ……」


 僕は高校時代から、そういう形でマークされていたのか。


 全然気づかなかったよ。


 むしろ、そのくらいの距離感でずっと護衛してくれた方が、護衛として力を発揮できるんじゃないだろうか。


「俺達二人がいる以上、大船に乗った気分でいてくれ」


「それはいいんだけど、一昨日は何でいなかったの?」


 一昨日、護衛の忍者は山田さんに蹴散らされていた。現在は全員入院中だということだ。


 この二人がいても、結果は大差なかった気はするけれど、護衛なのにそもそもいなかったという事実は捨て置けない。


「一昨日は……」


「一昨日は?」


東行線とうこうせんで事故があり、地下鉄との相互乗り入れが中止していた。だから、三時間ほど遅刻した」


「……最近の都心は相互乗り入れが多すぎて、一つの遅延が複数の路線に影響するよね」


 僕はそう答えつつ、こうも思った。


 この護衛をアテにしたらダメだ、と。

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