第10話 Let's search Yui

「山田さん、七使徒セブン・アポストルの存在意義……」


 僕が言い終わる前に、奥の扉がガチャッと開いた。


「ふわ~、おはようございますぅ」


「あ、おはよう……」


 パンダ柄のパジャマを着た魔央まおがくまのぬいぐるみを右手に出て来ていた。まだ寝起きで寝ぼけていそうな感じでほわほわした雰囲気だ。


「おはよう、黒冥くろやみさん、私の時方ときかた君がお世話になっているわね」


 山田さんの挨拶。


 いや、「君の時方君」ではないし、お世話になっているわけでもないから。


「は~い」


 要領を得ない返事をして、洗面所へと向かっていった。


「……」


 完全に話の腰を折られてしまったし、一応、魔央の朝食を作っておいた方が良さそうだ。


「それならワーバーに頼むといいわ」


 山田さんが、僕の携帯を手にして注文を始める。


 って、あれ、何で僕の携帯なのに、自由に使えるわけ?


「時方君の設定するパスワードくらい余裕よ」


「……」


 もっと複雑なものに変えないと。僕はそう誓った。


「この吉利というワーバー歴25年の人は届けるのが早いわよ」


「そうだね……」


 というか、君、待ち伏せしてノックアウトしていなかったっけ。彼のキャリア潰しておいて、どの口でそういうことが言えるんだろうか。


 あと、吉利さん、もう復帰したんだね。

 すごい根性だよ。まさにプロだよ。




 ワーバーを待つ間、テレビをつける。


 昨日の野球に関する話題はない。だけど、それを引き起こしたかもしれない相手はニュースになっている。


天見優依あまみ ゆいさんが、ワールドツアーの先駆けとして昨晩夜の便で台湾へと向かいました!』


「昨日、横浜スタジアムで始球式をした後、そのまま台湾に行ったんだね。うーむ」


「時方君」


「何?」


「デートしましょう」


 唐突な申し出に僕は頭をテーブルに打ち付ける。


「……全く話の展開が合ってなくない?」


「合っているわよ。時方君は今、天見優依のことを調べたいと思っている」


「それはまあ……」


「私は、自らの銃とピッキングその他非合法な才能を用いて、探偵になりたいと思っている」


 いや、普通の探偵は銃やピッキングや非合法な才能を使わないと思うんだけど。


「探偵になる私が、天見優依のことを調べる。その報酬としてお金ではなくデートを求めている。話が通じるわ」


「そこまで説明すれば、ね」


 天見優依からいきなりデートに飛んだら、訳が分からないよ。


「……依頼を引き受けるわ」


「いや、頼んでいないから。というか、調べるアテがあるの?」


「もちろん、面と向かって聞いてみるわ」


 うわ、何か実力行使とかしそう。勝手に荒事を起こして逮捕されて、「時方君に頼まれたの」とか言い出したら大変なことになりそうだ。


「……時方君」


「まだ何かあるの?」


「一つ大事なことを思い出したわ」


「何?」


 と言うと、山田さんがまっすぐ僕を見つめてくる。


 これは? 何かいきなりキスとかしてくるのか?


 身構えていると、唐突に。


「探偵を始めるには、警察に届出を出す必要があるのだけど、私の部屋は銃器が多すぎて探偵事務所にできないわ。当面、ここを貸してもらっていいかしら?」


「銃を撤去して、自宅で届出して」


 銃器が多すぎてって何だよ!


 あと、非合法な才能云々を自慢しておきながら、警察に律儀に届けるんじゃない!




 と突っ込もうとしたところで、インターホンが鳴った。



 どうやらワーバーが来たようだ。


「おはようございます! ワーバーの吉利箱坊きちり はこぼうです! ご注文のキャラメルクリームホイップフラペチーノデストロイヤー風味シェイクとドーナッツをお持ちしました!」


「あぁ、ありがとう……」


「女子の朝には、やたら長いドリンクが不可欠よ」


「そんなものなのかな……」


 まあいいや。とりあえず受取りに行こうと玄関に出ようとした瞬間……



 突然、吉利さんの足下が爆発し、彼は豪快に吹っ飛んでしまった!

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