第4話 Cause sister Seira said so(聖良様はかく語りき)・3
僕達は集団とともに地下駐車場まで移動した。
地下駐車場に連れられるなんて、ロクなものじゃない。フィクションなんかだとそのまま殺人一直線なんてケースもある。
ただ、彼らはそんなに物騒なわけではない。
駐車場には大型バスが数台止まっていて、みんなそこに乗り込んでいく。
「私達も乗るのでしょうか?」
さすがの魔央もちょっと不安げな様子だ。
いや、君が素直に従いすぎるからここまで至ったんだけど。
と言いたくもなるけれど、それを言って事態が改善するわけでもない。それに周囲の面々から敵意とか害意の類を一切感じないのも事実だ。
「それしかなさそうだね……」
こういう言い方は良くないのかもしれないけど、何かあったら、魔央に頼んで世界ごと滅ぼせばいいという開き直りもできている。
だから、素直に乗り込むことにした。
「
川神先輩が指さす席は、左側最前列。運転席もなく、フロントガラス越しに前の景色が見えるから、子供なら喜ぶような場所だ。
「わぁ! 前が広く見えますよ!」
僕の隣にも子供がいた……。
川神先輩がその右側に座った。運転手に「出発して」と指示を出して、バスが駐車場から外の道路へと向かう。
バスが動き出した途端に、雰囲気が一変した。
それまで、パイプオルガンの宗教歌みたいなものが近くで流れていたのが、突然曲がノリノリのものに変わる。
川神先輩が立ち上がった。後ろに向かって呼びかける。
「一昨日までの悪い流れは、昨日の逆転勝利で断ち切れました。今日はエースの古永が投げる試合、必ず勝ちましょう!」
バスの中から一斉にオーッという喚声があがった。
「更に本日は、我がKO大学ボイスターズ応援団に時方悠君、黒冥魔央さんという二人の新人が加わりました。二人の新人を前に恥ずかしくない応援をしましょう!」
またも、「オーッ」という掛け声があがる。
って、全員、青いユニフォームに着替えている!? 何時の間に!?
「あ、悠さん。この朝にもらったチラシ、隅っこに小さくKO大学ボイスターズ応援団って書いてありますね」
何だとぉ!?
本当だ。右下に小さな染みのようなものがあったけれども、よくよく見ると字だった。これ何ポイントで印刷しているんだろう? 見るのに虫眼鏡が必要だよ。
保険の契約書みたいな手口だ。
とすると、僕達の向かう先は?
「もちろん横浜スタジアムです。これから、私達は広島西洋カブスとの試合を応援するのよ」
「僕達も?」
「もちろんです」
と答えた川神先輩の殺気が急に濃くなる。
「まさか……、時方君、自分はカブスファン、なんてことは言わないでしょうね?」
「め、滅相もございません」
正直に言うと、ほとんど野球なんて見ていない。仮に見ていたとしても、そんなことは言えそうにない。「カブス、カブス、カブス広島! 広島カブス!」なんて歌おうものなら、高速道路で投げ捨てられかねない雰囲気だ。
ただ、ほとんど知らないからいきなり連れられて行っても選手も知らないんで困るんですけれども。
僕はまあ、いいとしても、魔央はどうなんだろう。
「魔央、野球を見ても大丈夫?」
「野球と言いますと、数字が9個並んだら終わる競技ですよね?」
どうやらほとんど知らないということらしい。
「これから見に行くみたい。どうしようか……」
「いいんじゃないですか? 私は野球を見るのは初めてですし、面白そうです」
こんな手口で連れられても楽しみだと言えるなんて、魔央、何ていい子なんだ。
そうこうしているうちに、バスはスタジアムに到着したようだ。
ライトスタンドの入場近くに止まると、川神先輩が「これを上から着るといいわ」と二着のユニフォームを渡してくれた。ご丁寧に背中には「YUU」と「MAO」とネームまで刻まれている。
こんなものまで用意していたのか。会費高いのかな?
「これはプレゼントするわ」
あら、そうなんだ。
周りはみんなボイスターズのユニフォームを着ている。そんな中で僕達だけ普段着だと同調圧力が凄くかかってくる。
仕方ない、上から着こもう。
僕と魔央がユニフォームを着ると、川神先輩が満面の笑みを浮かべた。
「改めて歓迎するわ、時方君、黒冥さん」
先輩は重々しく言った。
「ようこそ、私達の
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