第3話 Cause sister Seira said so(聖良様はかく語りき)・2

 時計は午後二時を回った。


 僕達は二限、三限の講義を終えたところだ。


 時計は二時半を回っている。



 朝、川神かわかみ先輩から誘われた時間まではあと一時間半。


 とはいえ、正直、出る気は全くない。宗教の全てを否定するつもりはないけれど、やはりトラブルになるのが怖い。



 そうでなくても、破壊神という厄介な存在が近くにいるのに。


 そうでなくても、全世界負け組救済機構という変な組織との付き合いができたのに。


 そうでなくても、山田狂恋という変なストーカーみたいな子に追われているのに。


 そうでなくても、気づいたら謎の1000万円が振り込まれているのに。



 考えれば考えるほど、自分が危険な状況にあることを自覚せざるをえない。


 これ以上のトラブルは嫌だ。


 そう思っているのだが。


ゆうさん、もうすぐ川神先輩から誘われた時間ですよ」


 何故か魔央まおの方が乗り気だ。


 どう考えても怪しさ爆発なのに、日頃、赤ちゃんレースとかほのぼのニュースばかり掲載された優しい新聞を見ているせいか、疑う気配がない。


 魔央が行くとなると、放置はできない。


 放置して何かあったら、僕にも矛先が向く。


 気づいたら世界が滅んでいるかもしれないし、そうでなくても日本政府に知られたら、「どうして彼女を一人にしたのかね!?」と石田首相から文句を言われかねない。


 選択の余地はない。


 仕方ない。ついていこう。



 川神先輩が話をするのは、有楽町駅の近く。大きなビルのホール会議室だった。


 普通の大学生が講演をする場所じゃない。川神家の力を感じさせる話だ。


「いらっしゃいませ」


 受付に案内されてホールに入る。


「すごいですね、人がいっぱいです」


「本当だね」


 ホールは600人くらい入る大きさがあるけれど、20分前で90パーセントくらいが埋まっていた。


 いや、これ、絶対サクラを動員しているよね。


 いくら川神先輩が財閥の娘で、ミスコン優勝経験があるとしても、芸能人でもないのだし大学生でこれだけの人は集まらないよね。


 と、真ん中の方に二人掛けの席が空いていた。


「あそこにしようか」


 かなり見やすい席だし、ちょうどいいだろうと、この時の僕は思った。


 それこそが罠だったみたいなんだけどね。




 定刻になると、川神先輩がやってきた。壇の上から、ホール全体を眺めているけれど、人数に圧されるようなところはない。慣れ切った様子だ。


「本日も、大勢お集まりいただきありがとうございます。これより、不肖・川神聖良かわかみ せいらが神の教えを説きたいと思います」


 拍手が沸き起こる。


 魔央もしているので、僕も合わせることにする。


 果たして、どんな神の教えが出てくるのだろうか。



 開始から五分。


「……神は必ず私達の想いに応えてくれるのです。25年、場合によっては38年待つこともありますが、必ず応えてくれるのです。私達は神を信じて、耐えなければならないこともあるのです」


 現代風のイケイケな話なのかと思っていたら、意外と忍耐を説く話だった。


 しかし、25年とか38年とか耐えるというのは現代人にはついていけないんじゃないだろうか。25年はともかく、何で38年なんだという疑問も出てくるけれども。


「……何か質問はありますか?」


「はい、はーい」


 って、魔央が手をあげている。


「何でしょう、黒冥くろやみさん?」


「私達は25年も生きていないのですが、それだけ待つというのは大変ではないですか?」


「ごもっともです。ですが、神は大きな愛だけではなく日々小さな愛を送ってくれます。そうした愛を感じながら、生きていくのです」


「そうなんですね」


「黒冥さんと時方ときかた君も、そうした小さな愛や奇跡を感じるとよろしいでしょう。それでは行きましょうか」


 川神先輩の声とともに周囲の面々が一斉に立ち上がった。


 うわっ、何だ、これは。


 座っているのは僕らだけになっていた。


 よく分からないけど、僕達二人だけ座ったままというのは抵抗があるからつられて立ち上がる。


 と、周囲が一団となって移動を開始した。後ろが突っついてくるので、僕達も従って動くしかなくなる。


 これ、団体で包み込んでそのまま拉致するような形なんじゃないのか?


 と思ったけれど、僕一人ではどうにもならない。


 魔央は素直に従っているし、早い話がどうしようもない。



 非常に不安ではあるけれど、川神先輩は令嬢だからいきなり僕達に危害を加えるということはないだろう。


 ここは素直に従うしかなさそうだ。

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