第15話 ようやく来る日常?

 山田狂恋やまだ きょうこと負け組団員が帰ったことで、ようやく部屋に平穏が訪れた。


 魔央まおは何をしているんだろう。


 食堂に戻ると、もうハンバーグカレーは食べ終わっていたようで、魔央は携帯とにらめっこをしていた。


「あ、お帰りなさい。悠さん」


「た、ただいま?」


 何だかよく分からない挨拶をかわす。


「ここで聞いていましたよ。皆さんの会話」


 そう語る魔央の目は輝いていて、表情も楽しそうだ。


「これは恋愛バトルってやつですよね?」


「れ、恋愛バトル?」


木房きぶささんと山田さんが悠さんを取り合っているという」


「そ、それは違うと思うけどなぁ……」


 山田は確かに一方的に思っているかもしれないけど、木房はそういうことはないはずだ。さっきは確かに協力的だったから、魔央は「木房は悠に協力的」と思ったのかもしれないけど、彼女が協力的なのはどちらかというと魔央が怖いからなんだよね。


「しかも、そんなのが七人も! 凄いですね!」


「えっ? 七人……?」


 何のことだと思ったけど、途中で木房が言っていた『七使徒』のことだろうな。


 あんなのが七人もいるのか?


 想像するだけでげんなりとなってきそうだ。


「マンガで読むより、現実で見る方が余程楽しいですね!」


「楽しいかなぁ……」


 木房や山田みたいな無茶苦茶なのはフィクションでも滅多にいないだろうし、あんなのが楽しいと言われるとこっちは身が持たない。


 というより、僕がここに来たのは魔央と仲良くなるためというはずだったのだが。



 そこまで考えて、僕は彼女が人間恐怖症だと言われていたことを思い出す。


「魔央さんって、人間恐怖症だって聞いたけれど、本当なの?」


 魔央はきょとんとしている。


「うーん、どうなんでしょう。確かに初対面の人とはびっくりしますし、思わずこんなびっくりするなら世界ごとなくなって欲しいと思う時もありますけど」


「いや、思わないで」


 もうちょっと段階を踏んで欲しい。


 ゼロの次がいきなりフルパワーっていうのはやりすぎだ。


 できれば、適当なターゲットだけ仕留めるようにしてほしい。


 ……。


 ……あ、その場合、僕がピンポイントで消されるからまずいのか。


「悠さんやさっきの方達みたいないい人なら大丈夫だと思います」


 いや、さっきの二人は絶対にいい人ではないぞ。


 あと、僕との初対面でいきなり世界ごと吹っ飛ばしたよね。ノックなしに入った僕も悪かったけど。


 ツッコミはいくらでも思いつくけど、突っ込んで解決する問題でもない。


「僕は、明日から平日は大学に行くけど、君はどうするの?」


「私も大学に行きますよ」


「えっ?」


 まさかの大学生?


 人間恐怖症じゃなかったのか?


「通信で大検を受けまして、合格していますので。お婆様も『ニートになってしまうと、ネットの変な意見を見るだけで頭に来て世界を滅ぼすかもしれん。外を歩くことが大切じゃ』と言っていましたので」


「なるほど……」


 確かにSNSにひどいやりとりやら意見がある。分からないではない。


「じゃあ、日中はそれぞれ授業だね。朝食は何か用意しておくよ。夕食は帰る時に決めようか」


「いいですよ」


 何だろう、木房奈詩や山田狂恋を見てきたせいか、世界を一度滅ぼしたことを差し引いてもまともに見える。破壊神なのに。



 朝食を用意すると言ったので、僕はコンビニにパンとサラダでも買いに行くことにした。


「あ、そういえば……」


 ちょうど4月分のバイト給与が月末に振り込まれていたんだった。


 今後家賃はかからなくて済みそうなので、バイト代が好き放題に使えそうなのは有難い。いくらくらい残高があるかなと調べてみる。


「1039万円か」


 思ったよりあるな。これだけあれば、一日20万円くらい使っても平気そうだ。


「って、1000万円!?」


 慌てて通帳の履歴を取る。


 今日、1022万円が振り込まれている。


 振込人は『ダイスキナユウチャンヘ』。


「……」


 誤振込ではないのだろうけれど、これは絶対に使ったらダメな金だ。



《第一章 恋人は破壊神? 了》

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