第14話 木房奈詩 vs 山田狂恋
青白い幽霊のような男に笑みを向けられて、僕は背筋に冷たいものを感じた。
「え、えぇーっと、どちら様でしょうか?」
「僕ですか? 僕はしがない負け組……。この世のクズです」
随分と卑屈な様子で答えられてしまった。
その返事を聞いた
「ZMK……。鬱陶しい奴らが来たものね」
ZMK?
ああ、Z(全日本)M(負け組)K(救済機構)ということか。
「負の怨念……厄介だわ」
山田の独り言を受けて、男を見てみる。確かに不気味なオーラみたいなものが漂っている。もしかしてあれで銃弾を防いだのだろうか?
ちょうどそのタイミングで
「もしもし?」
『スピーカーにするであります』
「わ、分かった」
僕は言われた通り、電話のスピーカー機能をオンにする。
すぐに木房の音声が場に響き渡った。
『山田狂恋、この場は
あれ、二人、知り合いなの?
あと、七使徒って何?
衝突はおまえも望まないだろうって、何かマンガの強キャラ同士の会話みたいだけど。
「嫌よ。時方君と結婚できるチャンスは今しかないんだもの」
山田はあっさりと却下する。僕の立場としては最悪だけど、彼女としてはそう答えるのが自然だろうなぁ。
『状況が変わったであります。おまえの望む形での結婚は無理であります』
「何ですって……!?」
やばい!
木房の「無理」という言葉に、山田の黒いオーラも一気に噴き出した。
もう嫌だ、何なの、この世界。
『時方様は、破壊神の対なるものとして選ばれたであります』
「……何ですって?」
先ほどと同じ「何ですって」だけど、今度の言葉には動揺がはっきり表れていた。
『おまえが時方様を独り占めしようとすれば、世界そのものがなくなるのであります』
「そんな……」
おぉ、効いている。効いているぞ。
山田がガックリと膝を落とした。
だけど、彼女なら「それなら時方君を殺して私も死ぬわ。世界なんてどうでもいいの」とか言い出しかねないから、不安だ。
それも木房が制してくれた。
『早まるのは厳禁であります。山田狂恋、おまえが目指すべきは世界の変革であります』
「世界の変革?」
『人類を一千万人にして、愚かな観念を全て撤廃し、多夫多妻制でフリーダム恋愛の世界を作れば、独占ではないにしても時方様と結婚できるであります』
おい!
何だよ、フリーダム恋愛で多夫多妻制の世界って!
やはり信用したらいけない相手だ、木房奈詩。
これで山田が木房の価値観に賛同すれば、それはそれで世界がやばい。
山田はしばらく渋い顔で立ち尽くしていたが、やがて膝の埃を叩きだした。
「……様子を見る必要がありそうね。一回出直すわ」
『ワタクシに協力しないでありますか?』
「それも含めて一回調べてみるわ」
『それが正しいであります』
木房の言葉には返事をせずに、山田はドサクサに紛れて落ちていた婚姻届を拾った。しばらくそれを眺めて、ビリビリと破る。
「……破壊神復活の事態となると、これも一旦お預けね。また来るわ」
そう言うと、クルッと背中を向けてスタスタと歩いていった。
その仕草は中々恰好いいんだ。普通にアクション女優でもやってくれないかなぁ。僕よりカッコいい俳優とかいそうなものだけど。
木房の話し相手は山田から、かけつけてきた負け組に変わった。
『すぐにかけつけたおまえ達、よくやったであります』
「ははっ!」
先ほどまでユラユラした動きで幽霊みたいだったのに、木房に言葉を向けられた途端に社畜のような鋭い動きでひれ伏した。
『会員番号を言うであります』
「はっ! 4932006845番でございます!」
「28541197番です!」
何人いるんだよ。
『4932006845番に28541197番でありますね。来月の儀式には、おまえ達の望む相手を呪うであります』
「ははっ! 有難き幸せ!」
二人は感涙して、何故か僕にも頭を下げて、社畜のような鋭い動きで帰って行った。
「……呪いって何なの?」
『私達全日本負け……』
「ZMKの方が言いやすいからそっちでいい?」
『……ZMKは、月に二度、総員丑の刻参りをしているであります』
「そ、総員丑の刻参り?」
丑の刻参りというと、藁人形に釘を打ち付けるというアレか。
『100万人を超える人間が一心不乱に一人を呪う、世界最大の呪術イベントであります。その様子はSNSなどを通じて全世界に広まり、ターゲットとなったほとんどの人間が鬱になり、気弱な者は心臓発作を起こすのであります』
百万人で丑の刻参り?
それは鬱になるわ。というか、トラウマになるよ。
しかも、あれか。やっている側は呪っているだけだから犯罪にもならないのか。
……最低だ。
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