第12話 突き付けられた婚姻届・1
いきなり突き付けられた婚姻届に僕は動転した。
こう言っては何だけれど、僕は自分の本籍地なんて自覚したことがない。なのに、目の前の届出には記載されてある。
「この本籍地って、本当なの……?」
僕の問いかけに、
というか、彼女の生年月日も見えたけど、同い年なのか。
「もちろんよ。私が時方君のことを、間違えるはずがないじゃない!」
「……えぇっと……」
ちょっと待って。
どう答えたらいいのか、分からない。
「これは、僕と君の婚姻届なんだよね?」
「もちろんよ」
即答で返ってきた。どういうことなんだ?
とりあえず間違いない事実として、山田狂恋は僕との婚姻届を出したいと思っている。
問題は、何故、彼女がそう思っているか、だ。
とりあえず三つの可能性を考えた。
① これは魔央が絡んだ案件である。僕が魔央以外の女性と結婚したら、世界はどれだけ遅くても二年後には滅ぶ。それが山田には都合がいい。
② 反対に僕が絡んだ案件である。魔央が破壊神であるように、僕も何かよく分からない存在で、僕と結婚することで山田には何らかの得がある。
③ 特に何もないけど、山田は僕と結婚したいと思っている。
まずありえないのは③だろう。僕は山田狂恋のことを全く知らないし、僕はどの筋でも有名人ではない。SNSなどでバズった経験もない。見ず知らずの人を熱愛するストーカーみたいな存在もいるようだが、さすがに僕のような普通の少年を勝手に熱愛しているのはありえないだろう。
となると、①か②である。
②の可能性を考えよう。先ほど、世界が一回滅んだ後に何故か復活したことから、僕にも何らかの力がある可能性がある。それを山田は狙っているのかもしれない。
ただ、それなら首相や此花婆さんも知っているのではないだろうか。僕が何かした方が手っ取り早いなら、魔央とくっつけるという迂遠なことはしないだろう。
となると、②も可能性としては低い。ただ、山田が魔央のことを知らない可能性はあるから、ゼロとは言えない。
最後は①だ。
これだけ奇天烈なことをしているのだから、山田が「こんな世界がなくなってしまっても構わない」と考えている可能性は低くない。山田個人でもかなり世界を滅茶苦茶にできそうだが、さすがに彼女一人では世界を相手にするのは大変だろう。
ということで、魔央の力を借りる。そのためには魔央を封じる可能性のある僕を押さえておこうというのはありえる考えである。
これが一番ありえそうな選択肢だ。
魔央を通じて僕にアクセスしてくる女性がいる、ということだろう。
と思っていたら。
「中学二年の、あの時から、私は時方君と結ばれなければならない運命だったのよ!」
山田は空を見上げて、叫んだ。
「えっ……?」
どういうこと?
中学二年?
同い年だったし、もしかして、僕が覚えていないだけで、同級生だったのか?
記憶の糸を辿ってみるけど、全く思い出せない。
「ごめん。実は、あまり覚えていないんだ……」
怒るかもしれないが、本当に分からないのだし、ひょっとしたら彼女の方が記憶違いをしている可能性がある。
ここはもう認めてしまおう。
「……」
山田は一瞬、落胆したような表情になったが、すぐにポーチから何かを取り出した。
卒業文集だ。
ちょっと待って、ポーチより卒業文集の方が大きいような気がするけれど。
彼女は手早い動きでパラパラとめくる。
「これが時方君で、これが私よ」
指さしたのは3年A組とC組の集合写真。
C組にいる山田響子は……全くの別人だ。少し暗め、こう言っては何だけどいじられたり、場合によってはいじめられたりしそうな子に見える。
もしかして、その復讐をしているうちに今の姿になったんだろうか?
そもそも、クラスも違うし、接点もないじゃないか。
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