第10話 頼もしき?護衛と代理ワーバー

「うーむ……」


 魔央まおの読んでいる新聞が、彼女だけのためのものであることを知り、僕はますます頭が痛くなる。


 彼女が認識している世界と、現実の世界が色々違うとなると、それこそいつ爆発するか分からない。その爆発が世界の崩壊に繋がるともなると、外出も出来ないのではないだろうか。


「いや、待てよ」


「どうかしたんですか?」


「世界のほとんどの国や組織は、魔央が世界を滅ぼすことを恐れている。だけど、逆にそれを望んでいる連中もいるのではないだろうか?」


 世の中には理解できない連中もいる。カルト宗教やら、過激派などなら、魔央を狙って世界を崩壊させようとするかもしれない。何故か分からないけど、崩壊をやり直しさせた僕もついでに始末すれば、完璧に世界を滅ぼせる。


「そうですね。だから護衛がいるみたいですよ」


 魔央があっさりと答えた。


「えっ、護衛、いるの?」


「石田首相から、忍者の軍団が護衛につくんだよと言われていますよ」


 忍者の軍団!?


 そんなのがいるの?


 現代日本に?


「はい。この建物や付近に100人くらいの忍者がいて、警護しているって聞きました」


「そうなんだ」


 そんなに凄い警護が敷かれているのか。


 ならば、大丈夫かな。



 と思った時、インターフォンが鳴った。


「あ、ワーバーが来たみたい」


 魔央のハンバーグカレーが到着したのだろう。僕はインターフォンに小走りに向かった。部屋が広いから、結構な運動になるんだよね。



「あれ……?」


 インターフォンのモニターを見て、僕は思わず声をあげた。


『ワーバーイーツです。商品をお持ちしました♡』


 ハスキーな声で言っているのは、漆黒の長髪をなびかせる切れ長の目が特徴的な美人だった。


 そう、美人なのである。バイクスーツに身を包んだ痩身の美女だ。歳は僕達の少し年上、22、3くらいであろうか。


 僕が頼んだ、ワーバー一筋25年の吉利箱坊きちり はこぼうではない。


 これは怪しい。


「……僕は吉利さんに頼んだはずだけど?」


『吉利さんは、暴漢に顔面を三発殴られて明日をもしれない状態です。ですので、代わりに私、山田狂恋やまだ きょうこが持ってきました♡』


 信用できねー!


 そもそも、吉利箱坊は25年間のワーバー生活で一度も配達に遅れたことがない人だと記録されていた。時間すら遅れないのだ、彼が持ってこないという事態は考えられない。


 この女、怪しい。


 仮に僕だけだったら、相手は美人だし、喜んでドアを開けていただろうけれど、ここには魔央がいる。どんな狙いがあるのか分からない。


「魔央! 忍者軍団と連絡が取れる?」


 僕は魔央に聞こうとした。まさにその時、モニターの向こうで女が舌なめずりをした。


『忍者軍団というのは……、これかしら?』


 女がスマートフォンを僕に向けた。


 そこには倒れ伏している複数名の忍者装束の男女の写真があった。それを更にスワイプしていくと、次々とやられている忍者の姿が。


「あっ!」


 更に、倒れ伏している吉利真面目の姿まで。


「やっぱり、君が吉利さんを!」


 僕の叫び声に、山田と名乗った女は小さく驚いた。


『あらぁ、まさかバレるなんて……』


「いや、君がバラしたんだけど……?」


『まあ、いいわ。確かに忍者が30人くらいいたみたいだけど、全員始末したわ』


「な、何だって……?」



 一言、言っていい?



 忍者、弱っ!




 叫んでも事態は改善しない。


「うわぁ!」


 目の前の光景に僕は思わず叫んだ。


 何と、女は唐突にマシンガンを取り出したのだ。


『迎えに来たわ、時方ときかた君。ここを開けるのよ』


 と言いながら、既に二、三発引き金を引いている。ガンガンという物凄い音が玄関の方から聞こえたけど、一応、破壊神をかくまっている部屋のドアだ。


 簡単には開かない。


「魔央! 警察! 自衛隊も呼んで! 君を殺しに来た奴が現れた!」


 僕が叫ぶと、魔央は首を傾げる。


「でも……、玄関の人、『迎えに来たわ、時方君』と言っていましたよ。私じゃなくて、悠さんに用があるんじゃないでしょうか……?」


「……あれ?」


 確かに、山田は僕の名前を言っていた……

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