第7話 博愛の少女"奈詩"・2
僕の人生は、今日、5月1日を境に180°変わってしまった。
破壊神の化身と許婚になってしまったと思ったら、街には謎の染みを使ってならず者を消し去る少女まで出てきた。
一体全体、この世界はどうなってしまうのだろうか?
「おまえ……気に入らないのであります」
分厚い眼鏡をかけ、『負け組万歳』Tシャツを着た少女に宣告された。
「……ワタクシのような愛らしい少女を目の前にしながら、子供の心配をする……一体、何者でげすか?」
ツッコミどころが多すぎる。
愛らしい少女も何も、その外見では変なファッションの変わった子としか思えない。
それに一体どこの方言なんだ、というような不思議な話し方だ。
「いや、8人消したとか言うような人を信用できるわけがないじゃないか」
僕の指摘に、少女は口元を不愉快そうにゆがめた。
「……盗み聞きしていたのでありますか」
「……聞こえるように言っていたと思うんだけど? 最初に何を言ったのかは理解できなかったけれど、その後の言葉は結構明瞭だったよ。そもそも、君は何者なの?」
「ワタクシですか? ワタクシは
「ぜ、全世界負け組救済機構?」
此花婆さんのWOAに続いて、木房奈詩の全日本負け組救済機構……今日は変な組織と縁がある日らしい。
「左様。世界中にいる負け組を救済するとともに、負け組達の怨念を世界に伝えるための組織であります。おまえが先程見たであろう黒い染み、あれは負け組達の残した呪いとも怨念とも言えるものなのであります」
負け組の怨念で人を消し去ることができる?
信じられないけれど、魔央が世界を滅ぼすことができるのもこうした力みたいだからな。
うん? というか、この子はもしかして、魔央とも関係があるのだろうか?
「8人とか9人というのは何なの?」
とはいえ、まず気になるのは木房が言っていたノルマの人数だ。
「それだけ殺した、というわけ?」
「殺したというのは語弊ありまくりであります。そもそも、ワタクシにはいかなる犯罪も成立いたしません。ワタクシが彼らを殺すような、いかなることをやったと言うのでありますか?」
「うーん……」
まあ、確かに彼女は荒くれものに対して何かブツブツ言っただけだ。
魔法とか異能とかそういう言葉で表現されるものになるのだろうが、現代の日本で、それで殺人罪なり傷害罪が成立することはないだろう。
「事件として警察に持ち込めないことは分かったけど、結局何をしたいわけ?」
「このTシャツが見えないのでありますか?」
「いや、それは分かるけど」
というか、眼鏡と『負け組万歳』とか入ってこないシルエットだから。歳がいくつか分からないけど、メリハリも無いし。
「ワタクシは、真に負け組を救済することを考えているのであります。口先や小手先のことなど考えません。そもそも、おまえは負け組が何故生まれると考えておりますか?」
急に難しい話を言い始めたぞ。
「……何だろう、不公平な政策とか、貧富の差とか?」
木房は大きな溜息をついて、首を左右に何度も振った。
「人類が現実を理解していないからであります」
「現実を理解していない?」
「……かつての人類は弱い存在でありました。しかし、21世紀を迎えた現在、人類は生物界の頂点に到達しているのであります」
「ふむふむ……」
「生物界の頂点にいる存在が80億もいるというのはありえないことであります。だから、同類で共食いをしているのであります。直接食わないにしても、過当な競争が起きるのであります。結果、勝ち組やら負け組やらが生まれるのであります」
何だか不穏なことを言い始めている気がするけれど、ひとまず話を続けさせよう。
「おそらく人類は世界中に1000万人もいれば十分であります。そこまで減れば、全ての人類が幸福に生き、勝ち組も負け組もほとんどない状況になるであります」
「……そうだとして、残りの人数はどうなるの? 現在80億人だというから、79億9000万人もいるんだけど」
「簡単であります。ワタクシが消すのであります」
「……」
やはり、先程のどうしようもない二人よりも更にヤバい女の子だった。
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