第4話 愛で世界を救うことになりました・4

 僕、時方悠ときかた ゆうは、WOA理事なる此花咲夜このはな さくや婆さんにいきなり「おまえが破壊神の対になる存在だ」と宣言されてしまった。


「全ては、運命なのじゃ。まだそなたに話せぬことはある。いきなりあれもこれもと詰め込まれるとそなたも読者も混乱するだろうから、な」


 何だかメタ発言を聞いた気もするけれど、確かに今日一日で聞いた情報はあまりにも多い。僕の中で消化できていないものが多数あるのは事実だ。


「故に、数日、そなたは黒冥魔央くろやみ まおと過ごし、色々と経験すべきじゃろう」


 許婚と数日過ごして色々と経験……


 何だかアダルトなものを想像してしまうけれど、僕は恋愛恐怖症気味だし、相手は人間恐怖症だ。そういう展開はないんだろうな。


「……分かった」


 これ以上、あれこれ言っても埒が明かないだろう。


 全ては黒冥魔央と会ってからの話だ。



 突然宣言されたことを半分程度しか理解していない。


 ただ、ひとまず黒冥魔央なる女の子と許婚になることは了承した。


 首相や婆さんの言うことを信じたかというと信じ切れてはいない。ただ、了承しないと解放されそうにないし、ここまで訳の分からない話だと、ネタとして付き合ってみてもいいんじゃないかみたいな気になったのは確かだ。


「で、僕はどうすればいいの?」


 満足そうな此花婆さんは電話で誰かを呼んだ。


「まずは二人の愛の巣に向かってもらう」


「……愛の巣?」


 僕は目を丸くした。


「当然じゃ。いきなりは無理にしても、最終的にはそなたと黒冥魔央は愛をはぐくみ、世界を救わなければならないのだから」


「……」


 絶句したけれど、婆さんの言いたいことは分かった。



 僕は黒冥魔央とどこかに同棲することになる、ということだ。



「早速案内しよう。ついてこい」


 此花婆さんが立ち上がった。


 ここまで来たら、とことんついていくしかない。僕も後を追う。


 学長室を出ると、そこに何人かの学生がいた。恐らく首相が来たことに気づいていたのだろう。「一体何があったのだ?」という顔で僕と婆さんを見ている。


「行くぞ」


 滅多に見ない光景に僕は恐れおののいてしまうが、婆さんは平然と歩いていく。


 そうしているうちに、別の学部棟の屋上に停泊しているヘリコプターに気が付いた。


「あれで行く」


「えぇぇ?」


 一体どこに行くのだろう。


 此花婆さんに従い、ヘリコプターまで案内された。乗るとすぐにプロペラが回りだして上空へと向かう。


 上空にいるのは数分だった。どこかのビルの屋上に到着した。


 高層ビルだから都心のビルだろう。すぐにエレベーターで一気に降りる。


 地下に降りると、そのまま地下通路を歩いて別の場所に向かう。


「ここじゃ」


 と案内された場所は、地下の秘密基地みたいな場所だった。


 そこで婆さんから紙を渡される。開いてみると、3LDKの部屋の間取りになっていた。



「ここが、そなたと黒冥魔央が住む部屋じゃ」



 婆さんが重々しく告げた。


 予想はできていたけれど、幾つか疑問がある。ここはどこなのか、何故地下なのか、黒冥魔央はいつやってくるのか。


「それでは、幸運を祈る」


 婆さんはそうした質問に答えることなく、さっさと道を引き返してしまった。



 何て無責任な。


 と思ったけれど、ひとまず入り口に近づいた。どうやら虹彩こうさい認証にんしょうらしく、僕の目に光が当てられ、入り口が開いた。


「し、失礼します」


 中に入るけれど、全く人の気配を感じない。


 もしかして、僕だけが先に連れてこられたのだろうか?


 僕は先程貰った部屋の図面を確認する。3LDKだけど、一つ一つの部屋はかなり広いようで、玄関からして二十畳くらいの広さがある。


 と、水が流れるような音が聞こえてきた。


「誰かいます?」


 僕は尋ねてみたが、返事がない。


 水が無駄に流れているのか、あるいは風呂が源泉かけ流し温泉になっているのか。僕は何となく音の方向に進み、手近な扉を開いた。


「……」


「……」


 そこは風呂場の着替え室だったようで、着替えをしようとしている魔央がいた。



 お互いに固まること二、三秒。


「……あの、僕は」


 言い訳をしなければいけないと思った瞬間、悲鳴が響き渡る。


「いやぁぁぁぁ!」


 その瞬間、僕はとてつもないGを感じた。


 それは彼女の体の奥底から放出されたものであった。



 魔央の悲鳴に驚いた地球は仰天して全ての活動を停止した。


 地熱はなくなり、自転を放棄したことで太陽の引力に猛烈に引き寄せられていく。


 太陽に近づいて灼熱の世界と化すのか、地熱を失ったことで氷結の世界と化すのか。


 答えは後者だった。温暖化という話がウソのように地球は急速に冷えてしまい、また、海水が運動を停止したことで極地から近い場所が猛烈に冷えていく。


 僅か数分で地球の平均気温は10度以上も下がり、程なく20度下がった。


 だが、最終的な破局をもたらしたのは月だった。引力がなくなったことで自由運動となった地球が、同じく引力から解放された月と衝突したのだ。


 人類が作った全核弾頭の数百倍の力が大地に加えられ、瞬時に地表は消滅した。



 世界は滅亡した。

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