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「おい、とっととしてくれよ。ムショ帰りで体のあちこちが痛えんだよ」

 バイクに跨った人物が叫んだ。そこには、以前よりすっかり痩せたロマの姿があった。久々の再会を喜ぶ時間もないので僕は一言だけ言った。

「頼んだ」

 ロマの後ろで、プナキアが身を乗り出した。落ちないように、うまく座席に座り込んでいる。ステラは、ようやく少し落ち着いたのか、立ち上がった。もう平気だ。これで、なんの悔いもない。ステラはおずおずと手を振って崖を降りていく。僕はずいぶん大きくなった背中を見つめ続けていた。

 後ろを振り返れば、すぐそこにいるであろうデルタは、何一つ物音を立てない。

 最後にロマが、ほとんど怒鳴るような声量で言った。

「俺の家族が悪いことをした。だがな!ステラはお前の恐れているような姿にはならん!」

 僕は、目を見開いた。ロマはいつか見た、皮肉っぽい笑みを浮かべていた。

「お前達がそう育てたんだからな!」

エンジンが全開になった音がして、バイクが僕から離れていく。ステラが最後まで、僕を不安げに見つめていた。

 またいつか、この宇宙のどこかで。

 僕は、みんなに手を振った。


「私たちと戦うのは、お前たちというわけか」

 どす黒い体躯が近づいてくる。僕は崖から立ち上がった。

「いや、『お前たち』じゃない」

 次の瞬間、兵士達が下から襲いかかる砂埃に呑まれていった。昨夜しかけた罠だ。ひらりと避けた2隊を除いて、全ての兵士が瞬時に消えた。

 「あの子を捕まえることはできないよ、僕がいるかぎりは」

「ふん、ならばお前を壊してあの子供に追いつくまでのこと」

 デルタが腰に下げていた剣を左手に持ちかえ、突進してきた。続いて、副隊長のユアという男も同じように向かってくる。

 はっきりと見えない。薙ぎ倒されていくガラクタが埃を起こし、レンズの度をあげても対象がうまく定まらない。

 その時、地面が一段沈み、ひび割れるような音がした。デルタの体が目と鼻の先に来ていた。奴がどしりと足を踏み込んだのだ。

 風が後方へ吹き荒れて、一瞬だけデルタの姿があらわになると、僕はカプセルを剣に変えて構えた。デルタが剣を振りかぶった。その機体は空へと舞い上がり、空中で停止したようにさえ見えた。そして僕の元へ落ちてくる。剣と剣のぶつかる金属音がしたかと思えば、すぐさま新たな一手を打ち出してくる。

 恐怖が胸を貫いた。先程から、ユアの姿がどこにも見られないのだ。激しくぶつかってくる刃の隙を見て、視線を回す。塵が舞い、ユアの影はおろか、デルタの腕さえ満足に見えない。

 襲いかかる剣を顔すれすれでかわし、前髪の一部が銀色に光りながらばっさりと落ちていったのを見て、背筋が凍った。

「旧式だと、よく見えないだろう?」

 どこかでユアの声がした。今、どこに誰がいる?素早く後退り、風を振り払った。視界が開けた先に、2本の足が見えた。

 ユアは、僕の頭上を今まさに越えようとしていた。それに向けて剣を投げる。

 ユアの手にしていた小型銃が、それに当たって落ちてきた。

「・・・!」

僕はデルタの一撃で右腕を失った。ユアは舌打ちをして奥へと駆けていく。銃は奪えたけれど、ユアを通してしまった。だから絶対に、デルタは通せない。ここで止めなければ。

 衝撃で吹き飛んだ体をなんとか立て直す。右腕の切断部分から部品がこぼれ落ちるのが見え、剣を左手で構え直す。

 瞼の裏でステラが笑っている。


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