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下手をすれば、落ちるかもしれない。この速度の中、落下すれば大怪我では済まないだろう。プナキアが僕に体重を預けてくる。背中側が圧迫されて気持ち悪さが込み上げてくるけれど、僕もハンドルを握る男の人の腰にしがみついているので人のことを言えない。
バイクについているサイドミラーで、父さんがロマと呼ぶその人の顔が見えた。髪も髭もボサボサで、頬がこけている。
休憩所が近づいてきた。僕らが何度も使ったテーブルが後ろへ消えていった時、涙が出た。
最奥の岩壁に、バイクで突っ込んで開けたような穴が見えた。きっと、ロマさんがここから入ってきたのだろう。
「よしッ、お前ら、ちゃんとつかまってろよ!」
ロマさんがアクセルをギュンと踏むと、一瞬体が浮き上がった。本当にここから出るのか、なんて思いが掠め、顔にかかってくる髪を払った。
その時だった。
「どこ行くのかな?」
後方からの引力に捕らえられて、バイクが止まった。
「・・・また会ったな」
僕はこの人を知っていた。家出をした時、街で僕を置きざりにした人だ。
その人は、バイクの後尾を掴んでいた。鋭い目に射抜かれて、僕は息もできなくなる。
「本当に人間だったとはな。いや、あの時は置いていったりして悪かったよ。わざとじゃなかったんだぜ?」
確か、名前は・・・ユア。
この時、ユアの舌が常人ではあり得ないほど長く伸びた。僕は眼前にまで迫った舌と、ユアが人間じゃないと気づいて衝撃を受けた。
「ははは、お前は揶揄いがいがあるな」
ユアは笑っている。ロマがアクセルを蒸しても、バイクは全く動かない。
「・・・あー、すまんが若者、急いでいるんだ。どいてもらえると助かるんだがな」
こんな時なのにロマさんは振り返りもせず、やれやれという調子だ。
「は?・・・ははは、面白い人間もいるものだな」
バイクを発進させたところで、ユアを振りきれはしないだろう。かといって今下手に動けば何をされるかわからない。
考えていた時、僕の思考は途切れた。プナキアがバイクから降りたのだ。
「手出しはさせません」
今、プナキアは僕らを庇うようにユアの前に立ちはだかっている。ユアの目の色が僅かに変わった。どうやら驚いたようだ。
「まさか、俺と戦うつもりか?」
ユアは、プナキアを頭の先から足先まで値踏みでもするかのように見た。こんなチビが本当に俺と戦うつもりなのか、と言いたげだ。
「お前にこいつらを守りながら戦える強さがあるか、見ものだな」
背筋が冷たくなった。そんなの、無理に決まってる。ユアは虐めるようにニヤリと笑う。
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