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ぎょっとして見ると、赤い煙が上がっている。ネピルが、「あちゃー」と言った。
「プナキアのショート、これで今月三回目だ」
ネピルが小走りで駆けてゆく。 僕は慌てて追いかける。
今度はちゃんとついていけた。どうやらこのガラクタ置き場において、何も見えないほど暗いか、まだましかは、場所によって違うようだ。
僕は、ネピルを追いながら漠然と思った。理由は特になかった。
「あの・・・もしかして怒ってる?」
細い背中に、恐る恐る問いかける。
プナキアに対してではなく、何か、もっと大きな、形の定まらないようなものに、ネピルが怒っているような気がした。
「…何も怒ってないよ」
ネピルは優しい微笑みを向けた。
しばらく黙って、ガラクタの隙間を縫って進んでいた。
出会ってからずっと、 ネピルから穏やかな空気を感じていた。一緒にいるだけで心が落ち着くなんて、不思議だった。
もしかしたら僕はネピルと、とてもいい友人になれるのかもしれない。
「いたいた」
丸いボディが、一瞬光った。 プナキアを見つけたのだ。 白かったボディは、熱っぽく赤く染まっており、目がグルグル泳いでいる。 わかりやすいショートだ。
「じゃ、ステラは足の方を持って。休憩所へ運ぶから」
「わ、わかった」
「まあ、80kgはあるけど、大丈夫だよ」
ネピルは楽々と、プナキアの頭の先を持っている。僕は渋々、分厚い円盤の足を掴んだ。 しかし、持ち上がるのか僕に。
うんうんと考えていると、ネビルが嫌な事を言ってきた。
「早くしないとプナキアが ・・・」
「ああ、もう。運ぶよ。運べばいいんだろ」
やけになった僕は勢いよくプナキアの足を、掴んだ。もちろん持ち上がるはずはない。結局ネピルがプナキアをおぶっていったのだった。
ネピルによると、僕の体には、数億という機械のパーツが詰まっているらしい。ネピルは、僕が『ロボット』だと言うのだ。正直ピンと来なかった。
どうして自分のことが一切わからないのか。
どうやってこんな場所まで来たのか。
いくら思い出そうとしてみても無駄だった。
ガラクタ置き場の朝は早い。
0時に電源をオフにし、翌日5時にオンにする。電源の消し方が解らず、昨夜ネピルに鼻で笑われた。
しかしその後、ネピルは丁寧に説明してくれた。
「まず目を瞑る。そして何も考えないでぼーっとする。 そしたら0時に電源がオフになるようにプログラミングされてるから」
ネピルはそれだけ言うとガラクタに肩をもたせかけた。白い髪が揺れる。
僕は、背をガラクタに預けて地面に座る彼を見つめた。
せめて横になりたいものだ。しかし横になって眠れるほどのスペースがない。あまりにも周囲にガラクタが多いからだ。
彼にならい、適当なところに座って目を瞑った。
こういうわけで、僕の初勤務の夜は終わった。ちなみにこの時プナキアは何をしていたのかというと、寝言を言っていた。
というのも、ネピルによればショートの修理をしても、その後何時間かは余韻で、悪夢を見たり、寝言をいったりするらしいのだ。
確かにその時プナキアは、
「シ、チュ・・・し、ち、し 」
というようなへんてこな音を出していた。 ネピルは眉をしかめていた。
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