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ステラを育て始めて約二ヶ月したある日、やっとロマがやってきた。随分と派手な登場だった。飛空型の車が急に私たちの目の前に停車したと思えば、その中から現れたのである。
唖然としていると、ロマは告げた。
「俺が乗ってきたこの車は緊急用の脱出に使ってくれ。いざと言うときはステラを連れて、これで飛んでどこへなりと逃げるんだ。バッテリー切れにならないように、普段は使うなよ?」
彼は再び車に引っ込むと、例のガラクタの崖の方へその車を運転していった。
私たちは後をついていった。そして崖の真下、光があれば影になる所にやっと駐車させると、ロマは疲れたと息をついた。
自身の腰ほどまである大きなリュックを背負っていた。彼がそれを地面に置くと派手に埃が上がった。 ステラは嬉しそうにきゃっきゃとはしゃいでいて、私はステラが塵を飲み込まないように、やや強引に自分の胸にステラの体を埋めていた。
「ずいぶん遅かったじゃないか。 様子を見に来ると言ったくせに」
ロマは、だってそんな余裕なかったんだもんとおどけて言いながら(相変わらずくえない奴だ)1枚の記事を差し出してきた。
『ボリジンと人間との溝、さらに深まる』
「というわけでだな。君たちのもとへ駆けつけようとしても、それができなかったのさ。俺は村を守っていないといけなかったし」
「・・・ボリジンというのは、なんだ?」
私はロマに尋ねた。
「最近できた言葉さ」
ロマはぐっと伸びをしながら続けた。
「お前みたいな奴のことを、そう呼ぶようになったんだ。まあ、最も奴らが勝手に作った言葉なんだが・・・」
ロマは咳払いをした。
「要するに、人間に支配されることをやめたロボットのことだ。思考もできるし感情だってある。最近増えてきてるんだ。その中の一部、過激派の奴らは、人間に今まで受けた仕打ちの復讐をしている」
私は言葉を失った。突破な情報にどう反応していいのかわからなくなる。
私のような者が他にもいて、どんどん増えている?
その中の一部が、人間を迫害している・・・ステラの顔を見る。私の体が震えた。
休憩所でロマを座らせて、とりあえず茶を与えた。ステラはロマに高い高いされて喜んでいた。
「まずは二人にプレゼントだ」
ロマはプナキアの頭頂部のカバーを開けて、3cm程のカセットのようなものを差し込んだ。 プナキアは目をぱちくりさせて、なんだか背が伸びたような気がしますと言った。
そして今度は私の服をめくり上げ、胸のカバーをパカっと開けた。ロマは手慣れた手つきで、私の内部を探っていく。カセットを埋め込める場所を探しているようだ。感覚がないとは言え、そんなところをいじられるとさすがに気味が悪い。
「おい、早くしてくれ」
「待てって、お前のはちょっと複雑だな」
何か妙な音がした。パーツがぽろりと取れたような音だ。ギョッとして見ると、ロマは苦笑いをして、手のひらのものをさっとポケットに入れた。
「・・・今、とれたパーツをポケットに入れたよな?」
「・・・」
ロマは口をぎゅっと結んで目を泳がせた。ごまかしが下手すぎる。どうせ、「高く売ろう」だとか「研究材料にしよう」とか考えているのだろう。浅ましい人間め!
更に詰め寄ると、困った返事がした。
「バレてたか・・・あー、その、これは無くても大丈夫なパーツだからさ!」
ロマはかわいこぶって笑う。やはり私には、こいつがどんな人間なんだか分からない。ふざけてるように見えるのに、それだけじゃないような気もする。変なやつだ、全く。
私は寛大な心を持って、見て見ぬふりをしてやった。
ふと、急にプナキアの目が青くなった。私は後ずさりして、ロマに腕を掴まれた。プナキアの目から四角い液晶が映し出され、ガラクタに反射して大きなスクリーンのようなものが現れた。その中で、続々と文字が生まれ、整列していく。みるみるうちに文章の列が出来上がり、記事になる。
「ネットワークだ。俺はあまり来られなくなるだろうから、これを使っていろんな記事を読んでおいてくれ。敵の情報や社会の流れは、そこから全部見ることができるから」
しばらくすると、その機能は私にも使えるようになった。 使いこなすのも難しくはないし、その気になればネットワーク上の全ての情報をインプットすることもできるだろう。まあ今すぐにしなければならないということもない。
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