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数日後、私はロマがよこしたグローブをはめ、ロマの説明で仕事を始めた。

こんなにも高いガラクタの山々を初めて見た。私はそれらを一つずつ手に取り、 崩壊しないように気を付けつつ、グローブで本当のゴミなのか、再利用できるのか仕分けにかかった。

 プナキアは私の元にゴミを運んできてくれた。 その視線が私に数秒向けられることがあったりして、奇妙に思うが、それ以外では私と彼の相性は悪くないようだった。ステラの世話係、仕事係に分かれ、二時間置きに交代しながら日々をこなしていた。仕事が終わると私達は、ステラのために作った休憩所に帰る。

 一つだけあった心配事は解消された。何とこの洞窟内には細い川があり、人間が生きられる分の水を得ることができるのだった。

 知識不足の私たちを救ってくれたのは、ガラクタを掘り起こした時に見つけた、大昔の育児の本のページだった。 それは私たちの必死の捜索もあり、徐々に増えていった。

 私たちをこれ以上にないほど助けてくれている。例えば育児に要るものや子供の扱い、子供のための環境作りはすべてその本で学んだ。

 そして必要があれば、私はガラクタの中で偶然見つけた飛空バイクにまたがり外へ買い物に向かった。

  ロマ・ステラは様子を見に来ると言ったくせにこない。 それでも本があればほぼ問題はない。ただ、母親と父親の重要さというところは何度読み返しても理解ができず、私とプナキアではやりようもない。 母と父という感じを出せないのがステラにとって悪影響にならないことを祈る。まあ、どうしても必要があればやる日が来るかもしれないが。

 プナキアは人間の赤ん坊と言うものを見たことがなかったらしく、見ているこちらが心配になる程戸惑っていた。 そしてステラのおしめを変えようと一緒に奮闘していると、

「ウガガ」

 と不快な音を立てて小刻みに震えた。 非常事態発生と電子音で叫びながら。

 大昔の人間たちが、こんな大掛かりな作業をしていたことに感心したが、それよりもプナキアに臭覚を感じる器官がある事に驚いた。

 よく、天井に大穴のあるガラクタの崖に登り、みんなで空を見上げた。毎日違う空が見えた。おしゃべりなステラも、この時ばかりは静かに、私かプナキアに抱かれて空を見上げていた。

 小さくてあたたかな体温を抱きながら、 天井の穴の分だけ見える夜空を眺めて、風の音に耳をすましていると、余計なことがスッと頭から消えて、今に向き合うことができた。この瞬間を愛することができたのだ。

 そんな様にして空を眺めていた、ある夜のことだった。

「オ話ガアリマス」

 プナキアが唐突に言った。

「ロマ様ガ以前ココニ来ラレタ時ニ、アナタニハ自我ガアルト仰ッテイマシタガ、自我ガアルトハドノヨウナモノデスカ? 」

 私は自分がもうロボットではないということを知らされた瞬間を思い出していた。ロマとステラの黒い瞳、鈍い色ばかりのガラクタ達、なぜか色彩が強烈に頭の中に残っている。

「お前の存在など、この世界にはない」という言葉は、今までどんな仕打ちにも痛みを感じたことのなかった私を、無意識の海から引っ張り上げた。凄まじい怒りと悲しみに突き動かされ、私は気を失ったのだ。

「世界が、色づいてる感じだろうか」

 プナキアはしばらく黙っていたが、再び空を見上げて、そうですかとだけ言った。

 その翌日、プナキアの言葉から、機械っぽいところが薄まったような気がした。

 

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