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「起きたか? 」

 腰を上げようとすると頭が痛んだ。 ゆっくりと目を開けたが、そこは目を開けていない時と変わらない暗さだった。 しばらく呼吸を繰り返す。

「自我が生まれてすぐなんだ。体がうまく動かないのも無理ねえよ」

 1m程度離れたところで、あの男の声。 怒りを思い出し唇を噛んだ。

 足に何かがぶつかった。私は首をそちらに向け、瞳のレンズの光彩を40%引き上げ、対象を観察した。 私の腿ほどの体長の、丸いボディのロボットがいた。その中心から5cm上に、赤いレンズがある。

「そいつはな、プナキアだ」

「本当の名を言え」

 凄むと男は溜息を吐きつつも答えた。

「へいへい、怖い怖い。 561 B3CO zzだよ」

 その範囲内だと、家事手伝いを専門にしたロボットだ。

「でもそれじゃ、覚えづらいだろう。 だから俺が今、プナキアと名付けたのさ」

「ちょっとまて、その前にここはどこだ? 」

 聞きはしたものの、位置情報は知っている。 これはステラへの嫌味だ。

「なぜ無断でゴミ置き場になど連れてきた? 」

「俺がお前の身を守ってやったんだぞ。礼の一つも言えないのか」

 鼻で笑ってやる。

「自分の身くらい自分で守れる。人間に守ってほしいと頼んだ覚えはない」

「気絶しててどうやって身を守るんだ? 」

 ステラがニヤニヤしていて、私は顔を背けた。私の頬は急激に熱を持った。

「子供みたいな顔つきのくせに偉そうな奴だ」

「私はずっとこの顔だ。 だが、中身はお前よりもずっとマシだ」

 どうにも胸の中が落ち着かずステラを責め立てるが、そうするとさらに楽しそうに笑ってくる。 だから余計に落ち着かなくなる。

「お前はもうロボットとは言えないな」

「何言ってる人間め」

 そう怒鳴った時、私はステラに怒りを感じている自分を知った。

 頭の先からつま先までを直線が一気に駆け抜けたようなリアルな衝撃は、今の私にはあまりにも巨大すぎた。気づけば掌は胸に押し当てられていた。

「お前にはもう心がある」

 そう言われた時、自分の体が自分の思い通りにならないという感覚を、初めて理解した。これが心だというのならば、人間はこんなにも巨大な化け物を、胸で飼っていることになるのか。

 私は人間が皆、何かに対する矛盾を抱えていたり、病んでいたりするような、どこかおかしいことへの理由を少し理解した。

 こんなものを胸の内で飼い続けているから人間は奇妙なのか。

「まあまあ、そう落ち込むことはないさ。心はお前に想像もつかないような痛みを与えるだろう。しかしな、それだけじゃないんだぜ」

 ステラがプナキアに目配せすると、プナキアは柔らかそうな毛布にくるまった何かを、私に渡した。 ゆっくりとそれをめくってみる。

 人間の赤ん坊がいた。驚くほど小さい手のひらにも、触れやしないと思ってしまうほど柔らかそうな頬にも、 なんだか胸の中がざわざわとした。

「俺の村の子供だ。最後の子なんだ。ほかはみんな、ロボットにやられた」

 男は何とか笑おうとしている。 泣きそうな顔になっている。

「人間は少しづつ、目立たないところで数を減らされている。一目離したすきにな。もっと・・・大々的にそういったことが行われる未来が来るかもしれない」

 ステラの唇が一瞬震えたのは、決して私の気のせいではないのだろう。

 創造者は裏切られる。人だって自然を裏切ってきた。当然の報いだと思ったが、私は何故だか、ステラに謝っていた。

「すまない」

 男は笑うような声を返した。

「お前は人間に一番近い位置にいるロボットだ。人間を迫害するロボットからこの子を守ってやってほしい」

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