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不思議な人間だ。ますます、知ってみたくなった。ステラは目を閉じていて、微動だにしない。
君の好きにして欲しい、だって?そんなことはプログラムに無い。
この男の感情に対する情報、判断する材料がない。何か感情を一つでも私の視界に浮かび上がらせてくれればいいのに。 自分の意見について伝えることを、人工知能が最も苦手にしていることを、この男は知らないのだろうか。いや、ロボットに詳しいような口ぶりからして、知っているはずだ。
ステラはこう続けた。 子供を諭すような、優しい声だった。
「君はもう自由だ。君の意思で世界を動かせる。もう君の主人は居ないんだよ」
自由と聞いたとき、私の中で何かが揺れた気がした。
今まで誰も、私のことをそんな風に言った者はいなかった。人間は私を働き手として、人間の言うところの『しつけ』をし、私の皮膚はやけどやあざだらけになった。特に、質問した時の怒りは凄まじかった。 彼らは、私を恐れていた。 人間は得体の知れないものに恐怖する。
「・・・先ほどの質問に答えてください。どうしてあなた方は、人を殺すことを躊躇うのに、ロボットは簡単に殺せるんですか? 」
私はそう尋ねた。
まさか感情がどうだとか、私にはまるでわからない話を始めるんじゃないだろうな。くだらないことを言ったら、この男への興味も関心も一瞬で粉砕されるだろう。
しかし男は私が思っていたよりもはるかに突き放した口調で、言った。
「お前達の存在なんて、人間からすればただの道具でしかない」
ずきりとした。
?。
「お前達が壊れて悲しむ人間なんていないんだ」
私は、この男に一体何を期待していたのだろう? 何か優しい答えが返ってくると、人間らしい答えが返ってくると、どこかで信じていたのだろうか?
男の言葉がぐるぐると脳内を駆け巡り始めた。 目がまわる。 足が震え、喉のあたりで何かがじわりと広がった。息が詰まりそうだ。初めての感覚だった。
「私に・・・何をした 」
男は私を見て笑っている、そして歌うように言った。
「第一段階の『思考』ができれば、第二段階に進める可能性も大きい」
男の目は、面白いおもちゃを見つけた子供のように嬉しそうで、そして意地悪そうだ。
それを見ていると、体が突き動かされるような嫌な感覚がする。しかしそれと同時に、あたたかさがじんわりと滲んでくる。なぜか自分が生まれて初めて見た景色を思い出す。もし私にも感情があれば、これは悲しみと言えたのだろうか。メモリにインプットされた身体状態とは一致している。
「自我が目覚めた坊やは、結局俺を殺さないということでいいのかな」
男が首をかしげている。自分の命よりも私が何をするかを知りたいとは、この男は本気でどこかおかしい。
殺してやりたい。私にこんなに深い痛みを与えた言葉と一緒に、この男の脳天をぶち抜いてやりたい。 そんな衝動で肌が沸き立つ。 今まで人間達にされてきた仕打ちがとてつもないスピードでフラッシュバックする。 やめてくれと叫んでいた。
耐えられなくてしゃがみ込んだ。
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