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ちなみに私はそれらがどんな感情なのかわからないが、大体のニュアンスはメモリーにセットされている。
私は男に問われた。
「お前、ナンバーを言え」
「050 A1P 279403cです」
男は首をひねる。 新しく残念、という文字が私の中でピコッと表示されて消えた。
「旧式の範囲内・・・勘違いか・・・」
男は息をついた。実行する確率、100%。
「・・・ちっ」
男の舌打ちは、合図だった。
弾丸の音がヒュンと飛ぶ。空気を破いた。ロボットが崩れ落ちた音がした。 ゆっくりと抜ける床を察知。それはまるで、静かに世界が崩れ落ちていくようだった。
緊迫した空気が生まれ、1体また1体と、倒れた者から落ちていく。撃たれたロボットから順に、足場の床を抜かれて焼却炉へと落とされるようだ。 全ては勢いを増し、土砂降りのような球の雨が降り出した。左が頭を撃ち抜かれた。
先程の質問の答えがどうしても分からない。
ふと、世界から音が途切れた。
飛ぶ銃弾が見えなくなった。男は銃を下ろしていた。
私は、首をかしげた。なぜ破壊行動をやめたのだろう。
「・・・そうだ、やはりお前だ!絶対にそうだ、お前に違いない!」
男は狂ったように笑い出した。もう私の左右にいたロボット達はいなくなっている。
「おい、俺の名はロマ・ステラだ!お前の名前を教えろ!」
本当にこの男がわからなくなってきた。私の名前など、男が持っているリストに嫌というほど記されてあるだろうに。
私は無視を決め込む。すると男は更に大きな声で叫んできた。
「ちくしょう、俺は・・・ずっとお前を待っていたんだ!ああ、神様!」
待っていた、という言葉が、なぜか鼓膜を掴んで離そうとしなかった。そんなこと初めて言われたからだろうか、妙な感覚がした。
知りたいと思った。 このおかしな生き物のことを、もう少し知ってみたい。
「お前、生きたいと思うか? 」
ステラは私に問うた。生きたいという感情はプログラミングされていない。
「さすがにまだわからないか」
ステラは苦笑したが、すぐまた真剣な表情に戻った。
「俺は、生きたいなんてもう思えなくなったよ」
「では死にたいのですか? 」
ステラは首を振る。
「死にたいもわからなくなってしまったんだ」
一瞬だけ、微かに感じた。なんとなく、空気が重い。
「もう俺は君を殺せない」
そういってステラはポケットから、スイッチのついた赤い盤を取り出した。リモコンだ。
「君が望むなら、俺はこの部屋の扉を開けることができる。他を望むのであれば・・・俺は君の命令一つで、自分の頭に銃を突きつけることもできる」
一体この人は、私をどうしたいのだろう? そして私に何をしてほしいというのか?
ロボットは人間の、何10倍の知能を持つと言われている。
どうしてもわからない。 彼が私を殺さない理由も、一度作った癖に、私達を大量に捨ててしまう社会も。
「あなたは私に何をしてほしいんです? 」
小型ロボットが複数台現れてきて、今は亡きロボットたちの、下に落ちきらなかった残骸を片付けている。 世界から音が失われたような静けさに、人工皮膚に包まれた機体がしんしんと震えた。
「君をもっと見せてくれ」
ステラが両手をひらひらさせる。
そしてこんなことを言う。
「君の好きにして欲しい。君を壊しかけた俺を殺しても良いし、殺さなくてもいい。 君のような、特別な存在のことが知りたいんだ」
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