第2章

水色の防護服の男が、こちらを見下ろしている。左右一列にずらりと並ばされた、私と同じ、人間の顔。不気味なほど整った合成繊維だ。

 男は私たちよりもはるかに高い場所にいて、私達は銃を向けられている。その最新型の銃器は、私達を侮辱するようにギラギラと光っている。私はこの部屋のデータを読み取る。意識さえすれば、様々な情報を視界に浮かばせることができる。簡単な行為だ。

 約1平方キロメートルのこの地下室に、同じ顔が計1497。 旧式となり、不必要になったロボット。

男の表情から、そして銃を持つ力加減から、この部屋の床を、いつでも自由自在に抜くことができるという情報から推測できる。機能停止が、人工的に行われる可能性、98%。


 男はニヤニヤと笑う。目が血走っている。

「これでも俺はロボット工学の専門家なんだがなぁ。ま、仕事なんでね。悪く思うな」

 仕事だから、という割にはなんとも楽しそうな顔をしている。

 だらしのない雰囲気の男だ。鼻筋はすっと通っていて鋭く真っ黒な眼差しは強靭そうだが、黒い髪はボサボサで、無精髭も短く伸びている。

 卑屈に笑うとできるしわは、世間にどんな仕打ちを受けてきたのかを表しているようだ。

 私は、今から5分後に、抜かれた床で焼却場へ真っ逆さまに落ち、炎の中へと投げ捨てられる。 そして灰になる。 そういうスケジュールらしい。

 男がガチャガチャと大袈裟に銃を構えた。私と同じ顔が、無表情で、そんな男を見るでもなく前を向いて整列している。

 最後の機会だ。 1つ考察してみることにする。

 ロボットと人間の違いとは一体なんだろうか。


 もうすぐ無理矢理消される疑問が、どうにも頭の中で引っかかっているような気がした。 中途半端な状況はあまり好まないので、声を上げた。

「質問があります」

 これも最後だ。一度くらい人間に質問してもよいだろう。私の声に男はぎょっとした。心拍数50%上昇、驚き、焦り。男の情報が文字化して視界に現れる。

 男はなかなかこちらを向かない。しかたがないので、軽く手を挙げてみる。

「ここです」

「お、お前思考をするのか? 」

 ・・・思考。

 私は周りを見渡した。 私に目を向けている者はいない。この時初めて気がついた。

 もしやこのロボットたちは、ものを考えたりはしないのだろうか? 考える者とは思えない、空虚な目をしている。

 男は震え上がった。ただ、それは恐怖や不安といった感情ではない。私の視界の中の文字が、焦り、驚きから、みるみるうちに変化していったのである。期待、興奮、喜びへと。

「お前、まさか・・・」

 喜びの情報が思考回路になだれ込んでくる。それはどんどん強くなる。この男、情緒不安定なのだろうか。

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