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群衆の声援が遥か下から聞こえる。誰も彼もが私の名を叫んでいる。片手を挙げると、彼らが一斉に静かになる。私は壇上のマイクに近づき、話す。
「諸君、今日は我が隊結成十年を記念して、祝杯をあげるために集まってもらった。たった十年の間に我々は、人間達への復讐を遂行し、続々とこの世から追い立てて行った。私達は奴隷という身分を自らの手で駆逐していったのだ。これは私たちの努力の賜物である」
ユアがすぐ後ろにいる。おそらく私を睨んでいることだろう。彼は以前私に、足と胴の一部を粉砕されたことを根に持っている。修理でそっくりそのまま元に戻してやったのだ、恨まれる道理はない。
「我が隊はこれからも、ボリジンの治める世のため、全力を尽くそう」
爆発的な歓声が上がった。ボリジンたちの興奮の波が伝わってくる。私にはこの世界がある。私にはあの人がついている。
見下ろしてみると、ちらほらとフード付きの上着を身につけている者がいる。それで思い出した。
あの時、十年前、砂漠を歩いていた時に着ていたフードをユアが時々着ているため、彼らが勝手に真似をしているのである。ユアは大層な人気者で、それは美形ということもあろうが、人間そっくりの見た目をしているというのも理由としてあるのだろう。一部のボリジンたちは人間を憎んでいながらも、まだ人間に従うという刷り込まれた潜在意識を捨てられないようだ。
ユアがフードをかぶる時、必ず私と大喧嘩になる。奴はあの人を忘れないために着るのだという。私達の分かり合えない点の一つだ。
私とユアは壇を降り、硬い掌のゴツゴツした拍手に包まれながら、静かな廊下に入った。 誰もいない。
「何が不満だ?」
顔をしかめるユアに向けて尋ねた。
「私が何か、おかしなことを言ったか?」
彼は睨んできたが、すぐに目を逸らして、控えめな声で言った。
「まだ三人で暮らしていた頃、ロボットも人間も平等に生きるべきだと、お前は言った。メイラさんの死を・・・無駄にしちゃいけないんじゃないのか?」
私は笑いを抑えることができなかった。ユアが私に怯えているのだ。
「無駄になどしていない。むしろ喜んでくれてるさ。 あの人を殺した人間達を、苦しめているのだから」
「だが・・・無実の人達もいたかもしれない」
「ほお、そうか。ならば、祖先はどうだ?その、無実の人間達とやらの祖先が、もし昔、私たちを迫害していたら?そいつらの祖先の中にあの人を殺した兵士がいたらどうだ?それは、卑しい血筋ではないのか?」
私は自分自身に言い聞かせるようにじわじわと言葉を放った。
「あの人は、血筋などと、くだらないことで殺された。 だから私はあの人に代わって、彼らの罪を粛清する。 彼らの・・・大好物の、血筋の汚れを正しているのだ」
一体どこが間違っている?ボリジンと人間が平等になるには、今まで散々な目に遭わされてきた私たちの憎しみを晴らさねばならない。そうに違いなかった。
世界が、ボリジンのものになってゆく。 その感覚は私を歪な興奮へと追い立てた。
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