力ずくで人を突き飛ばしながら走りだした。轟音が大地を引き裂く。誰かの叫び、女たちの叫び、何もかも1つとなって心に迫ってくる。地獄があるとすれば、それはまさにここだった。頭を、手を、足を押しのけ、後ろに吹き飛ばし、あの人を探す。どこにもいない。

 斬りつけてくる男を殴り、再び駆ける。途中で、羽交い絞めにされているユアを助け出した。

「メイラさんは!?」

ユアが尋ねてきた。あまりの恐怖に身体中が軋む。

「人が多すぎてわからない!」

 悪寒が体を走り抜ける。あの人が壊れる、壊される光景が浮かび上がってくる。

 その時。

「ライナを討ち取ったぞーッ!」

 興奮した声が響き渡った。次第に兵士たちの間で歓喜の波が伝わっていく。何が起こった?嘘だ。私たちを錯乱させるためのデタラメだ。

 人々の隙を突き、生死を考えず吹っ飛ばし、声のもとへと走る。

 そこには一人の兵士と、血を吸った地面に伏した、メイラさんの姿があった。私の体は動かなかった。兵士の剣から毒々しい血が滴り落ちている。彼女はピクリとも動かない。 それは私の理性が飛ぶ前の、最後の景色だった。


 再び目が覚めたとき、側にユアが座っていた。震えていた。

「あの人は・・・」

「死んだよ」

 ユアの表情は見えなかった。こいつまで何を言っているのだろう。

「何を言ってる?つまらないジョークに付き合っているヒマはない」

 腕を上げた、と思ったがどうやら上がっていない。足も動かない。信じられないほど、重い。

「ここは・・・どこだ?」

 首だけはかろうじて動く。見回すと、そこには深い木々しかなかった。

「森の中だ。お前の体は動かないよ。あれだけの人間をやったんだ。まだぶっ壊れてないのが不思議なくらいだ。 俺はお前を抱えてくるのに・・・精一杯だった」

「私・・・たちは・・・」

 その時、すべての光景が凄まじい速度でフラッシュバックした。私を奴隷にした主人たちの顔。ありきたりとは言えなかったユアとの出会い。3人になってからの日常、砂漠、市場、血も涙もない人間たち。

そして、メイラさん。

「は、はは」

 笑う。私は壊れた。この日から私はどこかに去ってしまった。



ーーーーーー


 誰かが私の肩越しに言葉をかけた。

「隊長、ユア様の回復には、あと半日はかかるようで」

 ああ、と思い出した。私は怒りに任せてユアの半身を吹き飛ばしたのだった。

 

 振り返ると、兵隊の一人は言葉をなくし、私を凝視した。私はそれほど恐ろしい顔をしているだろうか。

 



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