7
7
力ずくで人を突き飛ばしながら走りだした。轟音が大地を引き裂く。誰かの叫び、女たちの叫び、何もかも1つとなって心に迫ってくる。地獄があるとすれば、それはまさにここだった。頭を、手を、足を押しのけ、後ろに吹き飛ばし、あの人を探す。どこにもいない。
斬りつけてくる男を殴り、再び駆ける。途中で、羽交い絞めにされているユアを助け出した。
「メイラさんは!?」
ユアが尋ねてきた。あまりの恐怖に身体中が軋む。
「人が多すぎてわからない!」
悪寒が体を走り抜ける。あの人が壊れる、壊される光景が浮かび上がってくる。
その時。
「ライナを討ち取ったぞーッ!」
興奮した声が響き渡った。次第に兵士たちの間で歓喜の波が伝わっていく。何が起こった?嘘だ。私たちを錯乱させるためのデタラメだ。
人々の隙を突き、生死を考えず吹っ飛ばし、声のもとへと走る。
そこには一人の兵士と、血を吸った地面に伏した、メイラさんの姿があった。私の体は動かなかった。兵士の剣から毒々しい血が滴り落ちている。彼女はピクリとも動かない。 それは私の理性が飛ぶ前の、最後の景色だった。
再び目が覚めたとき、側にユアが座っていた。震えていた。
「あの人は・・・」
「死んだよ」
ユアの表情は見えなかった。こいつまで何を言っているのだろう。
「何を言ってる?つまらないジョークに付き合っているヒマはない」
腕を上げた、と思ったがどうやら上がっていない。足も動かない。信じられないほど、重い。
「ここは・・・どこだ?」
首だけはかろうじて動く。見回すと、そこには深い木々しかなかった。
「森の中だ。お前の体は動かないよ。あれだけの人間をやったんだ。まだぶっ壊れてないのが不思議なくらいだ。 俺はお前を抱えてくるのに・・・精一杯だった」
「私・・・たちは・・・」
その時、すべての光景が凄まじい速度でフラッシュバックした。私を奴隷にした主人たちの顔。ありきたりとは言えなかったユアとの出会い。3人になってからの日常、砂漠、市場、血も涙もない人間たち。
そして、メイラさん。
「は、はは」
笑う。私は壊れた。この日から私はどこかに去ってしまった。
ーーーーーー
誰かが私の肩越しに言葉をかけた。
「隊長、ユア様の回復には、あと半日はかかるようで」
ああ、と思い出した。私は怒りに任せてユアの半身を吹き飛ばしたのだった。
振り返ると、兵隊の一人は言葉をなくし、私を凝視した。私はそれほど恐ろしい顔をしているだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます