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広場の噴水は黒っぽく濁っていて、とても設備がいいとは言えないようだ。人間がぞろぞろ集まっていた。誰もがどこかソワソワしている。
私とユアが、噴水の前に籠を置くと、その重量で威勢のいい音が起きた。籠には薬や薬草が山盛りに積まれてある。メイラさんの顔色は明らかに良くなかった。彼女はそれを押し隠すように、1人1人に薬を売っていた。 私とユアは深くフードをかぶりながら、無言で薬を人々に手渡していた。
夜がゆっくりと深まっていく。なのに、人は次々とやってくる。 この市場には医者や薬師がいないのだろうか?
メイラさんは、薬を渡しながらご婦人方とほんの少しの会話をする。
「あなたのように優秀な人がここにもいればねぇ。ここの奴らときたら、ぼったくりばかり」
「私の薬は・・・先祖代々のものだからね。作ろうとして作れるものじゃないと思うよ」
メイラさんはいっぱい詰まった袋を渡しながら言った。
大量にあった薬も、それを詰めた袋も数少なくなってきた。顔を上げると人が驚くほど減っていた。もう3、4人のご婦人しかいない。 隣でユアがそっと囁いてきた。
「おい、誰か来るぞ」
結構な人数に薬を渡した気がするが、まだ来るのか。そう思い、ユアの示す方を見た。途端、違和感がした。 どうも今までの人々に比べて背が高いし、大きい。
何やら鋭い先端が光った。剣が鞘から抜かれていた。分厚い鎧をまとった兵士たちが私たちの前に現れていた。
「お前たち、そこで何をしている?」
兵士たちはたいまつをともし始めた。暗闇の中に紫の火が灯っていく。 彼らの先頭は冷たい目をした奴で、最も隊服の豪華な、中年の男だった。その首元には黄色い大きなシミがあった。
メイラさんの首元に剣を向けたため、私はとっさに男の肩を掴んでいた。 奴は鼻で笑い、私のフードを払いのけた。 周囲から恐怖と警戒の声が起こった。
「こいつ、ロボットじゃないか」
ユアも同じように別の兵士にフードを除かれていた。今まで薬を受け取っていたご婦人たちは不安げな顔をして、私たちから距離を取っていった。兵士たちが続々と私たちを取り囲んで行く。
「通報があった。怪しい女が、広場で薬を売っていると」
やはりライナかと嫌悪をあらわにした男は、一度距離を取った。
「ずいぶん数が減ったと思ったが、この周囲にもまだ存在したのか」
周りの兵士たちも意地悪く笑う。ずっと黙っていたメイラさんの目の色が、僅かに変わった。だが、彼女はあくまで冷静に話を続ける。
「・・・話し合おう。話を聞いてもらえると言うならば、そちらの要求も呑む」
「黙れ。ライナは卑しく汚い血筋である」
私からすれば彼女と、この兵士達の何が違うのかよくわからなかった。メイラさんが振り向いて、気味の悪い予感が深まっていく。
「残りの薬はみんなに分け与えてくれ・・・袋の中にレシピも入れておいたから、難しいかもしれないが作ってみてほしいと、みんなに伝えてくれ」
メイラさんと目が合った。彼女は、昨夜と同じ寂しげな微笑みを見せた。その口元が僅かに動き、無言の伝言が交わされる。
たいまつの火の粉がチラチラと世界を燃やし始めた。
私から何もかもを奪おうとするかのように、ゆらゆらと禍々しく揺れた。
にげて
男が片手を上げた。
「掛かれーッ!」
人の荒波が押し寄せてくる。あの人が見えなくなる。手を伸ばす。届、かない。
「やめろ!」
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