メイラさんの薬を少し離れたところにある市場で売ることになった。それは彼女の薬の需要が高まってきたことにあった。

 私とユアは喜んで、その日はうさぎの他にイノシシの肉も狩って帰った。メイラさんは照れていて、私たちが褒めそやすと殴ってきた。

  出発は明日だ。この路地裏から市場まで、半日は歩かなければならない。 薬を入れた籠を計3つ、1人1つずつ担いで行く。 メイラさんのものが1番軽く、私のものが1番重い。

「あんた達、フード被りな。人間ばかりの市場だからね。怪しまれたら薬が売れない」

 という一言で、私たちはフード付きの上着とズボンをこしらえ、一見人間のようないでたちとなった。

 その夜、ユアが早々にシャットダウンしてしまった後、私もそれにならおうとすると、いつもは早寝のメイラさんがまだ焚き火を眺めていた。 大きな瞳に、鮮やかな炎が写っていて、宝石よりずっと美しかった。

「眠らないのですか?」

「うん、もう少しここにいたくて」

 メイラさんはにっこりした。彼女の笑顔なんてめったに見られない。

「おかしなことを言いますね。まるでもう二度と帰れないような・・・」

 私は軽口を言う。彼女がいつものように、肩をすくめてくれると思っていた。しかし、メイラさんは悲しげに笑っていた。 それが妙に私の中に焼き付いた。


 翌日、私たちは市場へ向かう道中に砂漠を進んでいた。

「大丈夫ですか?人体にはこの場所は過酷でしょう」

 メイラさんの髪は汗で濡れている。もう上着も腰に巻き付け、ズボンのすそも折っていて辛そうだ。

「ああ、大丈夫さ。構うことない」

 言葉と裏腹にメイラさんの表情はどんどん険しくなっていく。私は見るに見かねてユアに話しかけた。

「私が三人分の荷物を引き受ける。お前はメイラさんを担いでくれ」

メイラさんとユアから荷物を引き受けた。さすがに3人分持つと少し足が沈む。ユアは倒れそうなメイラさんをゆっくりとおぶった。私たちは再び歩き出した。 焦茶色の砂の大地に、終わりは未だ見えない。


 走り回る子供たち、左右にずらりと並ぶ屋台。市場にたどり着いた頃には、もう太陽が沈みかけていた。 黒い影とオレンジ色の空がコントラストを生み出して、名画のような雰囲気を醸し出している。疲れきったメイラさんを連れ、ひとまず宿に向かった。

「今夜はもう休みましょう。明日の朝からで充分でしょう 」

 宿屋で案内された扉を開けると、質素で素朴な部屋があった。隅に荷物を固めた。ユアがメイラさんをベッドに横たえる。あまりお金がなく、1人分のスペースの部屋しかとれなかったが、ロボットには部屋などなくてもいい。

 メイラさんの切羽詰まった声がした。私は部屋に設置された水道で水を汲み、手渡した。

「・・・店を出そう」

 彼女は人間とは思えないほどの力でユアと私の手首を締め上げた。私はユアと顔を見合わせる。

 メイラさんの目は本気だった。ここまで真剣な彼女を見たことがなかった。これはよっぽどのことだと思った。だから、私たちがサポートしつつ、今夜、店を出す。そう判断した。判断してしまった。

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