2
2
玄関の門を出て、しばらく行った先の路地裏で女性を降ろした。彼女を縛る縄を引きちぎる。見開かれた目に、穴が開くほど見つめられた。
「どういうつもり?」
どういうつもりか、そんなこと、私が一番知りたかった。女性は、私に怯えて身を守ろうと構えている。なので、目線が同じになるようにしゃがみこみ、囁いた。
「逃げてください」
はやくこんな地獄を抜け出して、逃げてほしい。
女性はよろよろしながら立ち上がった。戸惑いながら、暗闇へと駆けていく背中が見えた。帰ろうと振り返り、私は急に気絶した。スリープモードが確認された。視界にoffの文字が表示されていた。
「気分はいかがかな?あまりいいとは思えないけど」
次に意識を取り戻したのは、先ほど出たはずの倉庫の中だった。背が壁につけられて、立たされていた。
異常を確認した。左足が動かない。
取り巻き達の横に、人間型のロボットが一体立っている。私は両肩を固定されている。
正面に立った少年が、人間型のロボットの方を向いた。金髪を短く刈りそろえられ、成人男性によく似た容姿をしている。
「こいつは、ユアさ。俺たちの友達だ。お前とは違う」
彼の名は、070 A1P 879403kのはずだが。少年は私に一歩近づくと、胸を殴った。銅を打ったような金属音が響く。機体に小さな傷を感知した。
「お前、あの女を逃したな」
少年が低く囁くと、ユアが彼の前に立った。ユアの影によって視界が暗くなった。一度交信を持ちかけてみたが、返事はなかった。
「やれ」
少年は冷たく言い放った。ユアの拳が振り上げられた。
それから何日か経った。ユアが人間からの命令にいかに従順かということは、よくわかった。ユアが私を殴るたびに増えていく傷。あの少年には一切の情がないということも理解した。
「おー、やってるやってる」
時たま様子を見にくる三人は、私に攻撃を続けるユアを労った。
「よしよし、ちゃんとこいつがぶっ壊れるまでやれよ?」
少年が取り巻きに呼びかける。彼らは賭けをしていた。私があとどれくらいの時間で壊れるかという内容だった。
「ユア、頑張れよ。あと三日以内に壊せ。主の命令は絶対だぞ」
ユアは電子音の声で返事をし、彼らは満足そうに帰っていく。
私の機体には、傷はつくが、人間で言うところの痛覚はない。よって殴られようが何をされようが痛くはない。そのはずだった。なのに殴られるたび、胸の奥深くで刺されるような痛みが走り抜ける。いったいどこの器官でそんなものを感じているのかさえ、私にはわからない。
あの人は、うまく逃げることができただろうかとぼんやり考える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます