第1章

人間を捜索している途中、私を含む七体の兵士は、座り込んでエネルギーを供給していた。

 向かい側に座るユアは、私の方をチラチラと見ている。怯える子供のように。

 副隊長であるユアは、私の自我が生まれた時にも側にいた。いや、正面にいた、というべきか。そしてユアの自我が生まれたのには、二説ある。私と同時に生まれたか、私より一ヶ月後に生まれたかのどちらかである。

 隊に会話などなく、陰鬱な空気が溢れていた。エネルギー缶を喉に流し込み、目を閉じれば必ずと言っていいほど浮かんでくる光景、過去を受け入れた。女性の横顔が見える。私はその痛みに、束の間意識を投げ出していた。


Z50987

 それが私の名前だった。仕事内容は主人によって様々で、ほとんどが力仕事だった。

 ただ、軍事用の最新モデルであり、高額な機種なので、富を自慢するために庭先に突っ立っているという仕事もあった。雨にさらされようが巨大なハリケーンで庭が崩れようが、私は毎日働いた。契約は大概五年ほどだったが、金を積まれれば再雇用させられた。それがたとえどんな主だったとしても、私に拒否権などなかった。

 ある夜私は、主人の息子に倉庫に呼び出された。彼は、いい人間とは言い難かった。普通ロボットは、仕事場が変わる時に、元の場所での情報を全てリセットされる。だが私は今までずっと、何もかもを覚えている。その頃からどこかおかしかったのだろう。当たり前のように従属するロボット達を、まるで他人事のように感じていた。

 私は素直に倉庫に向かった。

 分厚い扉は、不気味な音を立てて開いた。腰辺りまで伸びた黒髪の女性が、あざと埃まみれで倒れていた。両手両足を縛られていて顔は見えない。奥の暗がりから足音がして、ニヤニヤと笑う少年が現れた。左右にはその取り巻きがいる。

「お前、この女を殺してどこかに捨ててこい」

 彼は女性を指さした。さすがの取り巻き達もこれには少々驚いたようで、私たちを交互に見やっている。女性が掠れた声で叫んだ。独特のアクセントがあった。その声が、私のあるはずのない心臓をハンマーで打ったように鳴らした。

「私が・・・ライナだからか!血も涙もない化け物め!」

 そして私を、火を吐くような目で睨んだ。

「挙げ句の果てにこんな気味の悪い機械の塊なんかを造りだしやがって」

 少年は面白がりながら私に命じ、私はそれに従って女性を抱える。拒否権などない。女性はピクリとも抵抗しない。どこにもそんな力は残っていないようだ。

「今にこいつらがお前たちを八つ裂きにするだろう!骨をしゃぶり血を吸って皆殺しだ!指をくわえて待っていろこのケダモノッ!」

 倉庫を出た時、女性の叫びと同時に奥から声が聞こえた。

「あーやだね、血の汚い種族は。心まで卑屈になっていくんだから」

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