6Welt 「老人と砂」

 僕は歩いていた。じりじりと照りつける太陽は砂を焼いて、焼けた砂は僕を焦がした。それでも、僕は歩かなければならないし、止まることなどは許されなかった。でも、誰に?いや、いい。考えたって仕方ないのだ。

 「暑くはないのか?」砂漠のカラスが僕に話しかけてきた。黒い翼をはためかせながら嫌な笑顔を浮かべた。

 「止まればいい」カラスは汚い声でまるで罵るみたいにそう言った。間違っていないのが、なんだか気持ち悪かった。腹が立った。嫌だった。でも、正しいから、否定は出来なかった。ここで僕が立ち止まったところで誰が困るのだろうか?この歩みにはきっと価値などない。なのに。

 「あが……、あが……」カラスはその体に光を取り込みすぎて発火した。カラスが鳴きながら地面に落ちる姿が滑稽だった。笑えないけど。

 日差しはどんどん強くなった。見渡す限り何もない世界で、僕は何を基準にどこに向かって歩いて行けばいいのだろうか。それがわからないから、僕はただ歩くしかない。苦悶の中を。

 「やぁ。少年」老人がやってきた。褐色の肌に深いしわが刻まれていて、目は落ちくぼんでいて、黒いシミのように見えた。五十度ほど傾いた腰に、細い腕を乗せてしきりにたたいていた。

 僕は密かに絶望した。僕は老人になっても、この荒野を歩き続けるのだ。太陽と砂が支配するこの土地を。

 「少年、しっかり歩け」老人は僕の背中をたたいた。それがなければ、止まっていただろう。でも、それが何だというのだろう。僕は止まった方が楽になれる気がしていた。

 「少年、今わしの目には何が見えていると思う?」

 「砂」僕はそう言った。

 「そうじゃな、でも正確には光り輝く砂じゃ」

老人の言う通り、砂漠の砂は日の光を受けてキラキラと光っていた。

 「気の持ちようさ」老人は笑って歩いて行った。だけれど、僕は立ち止まった。それから、肉が朽ち、骨が砕けるまで僕はそこに居た。

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