4Welt 「平成レトロ」

 平成。僕の世界はそこから始まり、そこで終わった。

 部屋に散らばった、雑誌にはドラゴンボールのイラストや工藤静香の写真集、それからファミコンのソフトがうず高く積まれ、一部は崩れていた。

 ブラウン管テレビから流れてくる『らんま2/1』を眺めながら、側面に貼られている色褪せたポケモンシールに触れた。

 令和になっても、僕の部屋だけは平成初期で止まっていた。

 僕にとってここは、ほとんど楽園に近かった。僕はこの部屋にいる限り子供のままで入れたし、こっそり食べる夕飯前のスナック菓子の背徳感を味わうこともできた。

 僕はドラゴンクエストを起動した。

「冒険を始めますか?」

 僕はハイをおした。

「本当に?貴方は平成を抜け出して、令和の世での冒険を始めますか?」

 背中にじっとりと嫌な脂汗をかく。その元号は……、というより平成以外の元号などはもう見たくも聞きたくもない。

「そうですか……。貴方を平成に引き止めているものはなんですか?」

 それは、平成に培われた僕の思い出たちだ。

「違います。それだけではないはずです」

 何も違わない。僕はこの空間が好きだから、ここが僕の居場所だから出ていかないだけだ。ここに僕の青春のすべてがつまっているから、出ていかないだけだ。

「貴方は、怖いのでしょう?先に進むのが……。いや、それだけではなく自分自身の平成以前の過去と向き合うことも恐れているのでしょう?」

 確かに、恵まれた家庭とは言えなかった。友達はみんな何処かへ行ってしまった。

「もう一度、冒険を始めませんか?本当に青春を謳歌していた、あの頃の貴方のように」

 でも、今更どうするというのだ。私は今年で41歳だ。若くもない。冒険など出来ない。武器も防具も魔法も何も使えないのに、どうやって令和を生き抜けばいいのだ。

「それでいいのです。始まりの村に行かないことには、装備も防具も得られない。さらにそこから抜けてモンスターを倒さないことには経験値も得られない。ここにいる限り、貴方のレベルはイチのままです。」

 携帯から着メロが流れる。

「さぁ、勇者よ。冒険を始めますか」

 僕はハイをおして、携帯を手に取った。ストラップがジャラと音をたてる。

「もしもし、加奈子……。俺だけど……」

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