2Welt 「アナログデジタル」
ピンク色の海が、朱色の砂浜と交わって、キィキィと音をたてている。
私は柔らかな堤防に腰を沈ませながら、のぼり始めた夕日を眺めている。指先で長い三つ編みをいじっていると指が絡まってしまうような気がして、慌てて手を離した。
ズズリュ、ズズリュ
背後から近づいてきたのはなめろうだった。
「Gyu a defu gonyu」
なめろうはそう言った。赤ん坊が話す喃語のようなもので、何かを私に伝えようとしているようにも思えた。或いは、単なる話し相手が欲しいのかもしれない。
私はなめろうを撫でた。めちゃぬちゃと音をたてて、私の方に体を擦りつけてきた。レインボーカラーの制服になめろうの透明な体液がついて、それが無数の吊り橋のように糸を引いていた。
受験生と勉強机を乗せたトラックが、何台か通り過ぎた。私は生意気な子供がヒーローインタビューを受けているところを、ワンセグで見ていた。
私は不意に思い立って、手に持っていたスマホを水切りの要領で海に向かって投げた。生意気な子供の声は少しずつ遠のいていく。スマホは少しずつ速度をあげ1708回目のバウンドで、既に弾丸のような威力になっていた。
パァン。スマホは人魚の頭部を貫いて尚も進んでいく。ハンバーグをこねているときに、誤ってミンチ肉を壁に叩きつけてしまったときのように人魚の脳みそが爆ぜ、枯れ木のような悲鳴をあげて絶命した。あれは、きっと最後の人魚だったのだろう。
スマホはこの世界の端っこまで行くと、見えない壁に弾かれて海に落ちた。海の女神が例の二択を私に提示したようだった。
「連続的な動きの終わりは、デジタルへの以降を示している」
振り返るとなめろうは消えていた。ただ、ネギと生姜の匂いだけが鼻先をかすめた。
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