第28話 限りなく絶望
「助けに来たぜ、セシリア」
リオンがボロボロに傷ついたセシリアに手を伸ばす。
すると、ぽろぽろと涙を流した彼女がリオンに抱きついてきた。
「リオーネさん! リオーネさぁん!!」
「セセセ、セシリアさん!? お、おちおち、おちちゅ……」
「アナタが落ち着きなさいよ!」
顔を赤くしてあたふたしているリオンの背中にウノが強烈な一撃を叩きつけた。
痛みで高揚した気持ちを吹き飛ばされ、リオンが平静を取り戻す。
彼は泣きじゃくるセシリアを宥めながら傷ついた彼女の体を眺めた。
ふつふつと湧き上がる黒い感情を呑み込んでセシリアの肩を掴み、身を離す。
「聞きたいことは沢山ある。けど今はやらなきゃ行けない事があるよね」
リオンが背を翻す。
彼の目の前に片目に火傷を負った黒獅子の姿があった。
「よう、久しぶりだな。また会いに来てやったぜ」
「グルル……」
火傷の痕が疼くのか、黒獅子が愉しそうに喉を鳴らす。
リオンの横にウノが立った。
「フォルトナは?」
「大丈夫、気を失ってるだけ。治癒魔法もかけておいたし、死にはしないわ」
「そっか」
壁際で倒れているフォルトナを見て、次いで後ろにいるセシリアに振り返る。
「セシリアさんはそこで見てて。後はオレたちが引き受ける」
「……いいえ、私も戦います。仲間がやられたのに黙って見てるなんて出来ません!」
かぶりを振ったセシリアが杖を構えてリオンの横に並ぶ。
彼女の体を心配し、止めようとしたリオンは、しかし桃色の瞳の奥に輝く熱い炎を見て杞憂だったことを悟った。
三人の魔女見習いが並び、中央のリオンが一歩前に出る。
「待たせたな。こっからが
「グルァ!!」
リオンが開戦を叫ぶと同時に痺れを切らした黒獅子が飛び出した。
鋭い爪がリオンの頭上から振り下ろされる。
「──【六重障壁】」
両者の間に割って入ったセシリアが六枚の障壁を展開。
黒獅子の爪を受け止めた。
彼女の影からウノが飛び出す。
「『人惑わす森の大木よ 吹き抜ける疾風が 静謐な間隙に太刀を抜かん』──【木葉風】」
「グオオォ!!」
ウノの杖先から風の刃が放たれる。
その時、黒獅子の咆哮が周囲に轟き、黒い鬣が淡い緑色の光を放った。
風の刃が霧散する。
「そのモンスターに風魔法は効きません!」
「それを早く言いなさい……!」
「だったら──」
舌打ちするウノ。彼女の反対側から出たリオンが杖先を黒獅子に向ける。
「『赤く燃ゆる灼熱よ 獄地の怪異に天罰を 吾が手に集いて 天球を焦がせ』──【ファイアボール】!」
「グァ!?」
完全詠唱から放たれる巨大な火球。
黒獅子は小さく唸ると、後ろに跳んでそれを避けた。
それを見たリオンが不敵に笑う。
「やっぱりな。お前、火が弱点だな」
「グ…………」
「図星みたいだな」
黒獅子に唯一通じた攻撃は不意打ちとは言え炎魔法だ。
それに加え、奴は執拗に炎魔法を避けている。
それでリオンは気づいたのだ。黒獅子の弱点が炎魔法だということに。
「弱点が分かればこっちのもんだぜ。ウノ、セシリア、行くぞ!!」
「えぇ!」
「はい!!」
リオン、ウノ、セシリアの三人が一斉に黒獅子目掛けて駆け出した。
三人がそれぞれ詠唱する。
「『赤く燃ゆる灼熱よ 吾が手に集いて 天球を焦がせ』──【ファイアボール】」
「『赤く燃ゆる灼熱よ 吾が手に集いて 荒波を焦がせ』──【炎波】」
「『赤く燃ゆる灼熱よ 吾が手に集いて 矢尻を焦がせ』──【炎の一矢】」
全員バラバラの魔法だが、皆一様に炎魔法。
巨大な火球がリオンの杖先から打ち出される。
黒獅子は横に跳んで回避した。
次いでウノが地面を火の波で焼き尽くす。
黒獅子は上に跳んで避けた。
しかし、それは愚策だ。
セシリアが火の矢で黒獅子の胸を狙い撃つ。
一直線に放たれた火の矢。
黒獅子は胸を貫かれる直前に自らの脚を犠牲にして致命傷から免れた。
「グオオオオ!!」
地に落ちた黒獅子が苦悶の声を叫んだ。
その鼻先にセシリアが杖を突きつける。
「これで終わりです」
セシリアが杖の先に魔力を集める。
ゼロ距離からの魔法攻撃。
片脚を失い機動力を削がれた黒獅子にそれを避ける術は無い。
「……ん?」
決着の瞬間を見届けようとしていたリオンがある事に気がついた。
それは黒獅子の首輪に赤い宝石が取り付けられているという事だ。
一瞬ただの装飾かと思ったが、その時宝石の端が黒色に染まった。
「──セシリア! そこから離れろ!!」
「──え?」
異変に気づいたリオンが叫ぶが、時すでに遅し。
宝石は一秒と経たずに黒色に染め上げられ、その直後に黒獅子が大きな咆哮と共に強力な魔力波を打ち放った。
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