第26話 救援要請
「ウノ、そっちはどうだ?」
「もちろん終わってるわよ」
ウノの方を見ると、彼女は既にホーンラビットの亡骸に背を向けていた。
リオンも手にしていたソレを捨てる。
「ゴブリンよか強かったけど、これが二層のトップなら三層も余裕だな」
「余裕? 私が助けなきゃアナタのお腹には穴が空いてたのよ」
「二対一だったからノーカンだ」
べーと舌を出すリオン。
ウノは呆れた目を向けると、くるりと半回転。
リオンに背を向け、歩いていった。
「どうでもいいけど、目的を忘れちゃいないかしら?」
「目的?」
「私たちはモンスターを倒すために戦っていたんじゃなくて、この水色のホワイトウィッチを採るために勝ったんでしょ」
「あぁ、そういえばそうだったな」
ウノがホワイトウィッチの前にしゃがんだのを見る。
ホーンラビットとの戦闘に意識を集中させていて気が付かなかったが、このホワイトウィッチからは並々ならぬ魔力が溢れている。
さすがは水色と言ったところだろうが、しかし不思議だ。
今、リオン達がいるのは二層への入口からほど近い場所。
変色するほど大量の魔力があったとも思えないし、大量の時間があったとも思えない。
普通に考えれば変色する前か、した直後に誰かに採られてしまっているはずだ。
そうされていないという事がリオンには不思議だった。
「これは……?」
ふと、ホワイトウィッチの前に座ったウノが首を傾げた。
リオンがそちらに近づき、彼女が見つけたものを見る。
「なんだ、これ?」
「何かの動物の足跡のようね」
「ホーンラビットじゃねぇよな。……コボルトか?」
「それにしても大きすぎる。これはまるで……」
「────ッ!」
刹那、リオンの首筋にゾワリとした感覚が走った。
ウノの前に立ち、一層への戻り口とは反対の通路をじっと睨む。
「リオン?」
「何か来るぞ」
「──っ」
リオンが警告すると、ウノもその感覚に気づいたようだ。
微弱だが、確かな魔力が近づいてくる。
程なくして足音も聞こえてきた。
獣のものとはまた違う、人間の足音だ。
リオンとウノが杖を構え、通路を睨む。
足跡がどんどんどんどん大きくなる。
そして──
「──リオーネ・クラシア!!」
「助けてくださ〜い〜!!」
「お前ら……フォルトナの取り巻き達!?」
通路の先から現れたのは全身に怪我をして、ボロボロになったキィラとサナだった。
二人はリオンの姿を見るや、目尻に涙を薄らと浮かべた。
「リオーネ・クラシア! お嬢様が! お嬢様が!!」
「助けてください〜! でっかいのが! 大きいのがグワ〜って!!」
「──落ち着きなさい。落ち着いて、最初から話して」
慌てているせいで話が整理されていない二人。
そんな彼女たちにウノがピシャリと言い放つ。
キィラとサナは彼女を見て、大きく息を吐いた。
先に落ち着いたのは意外にもサナの方だった。
「……知ってると思うけど、私たちはフォルトナ様とパーティを組んでるんだ〜」
「確か、セシリアも同じパーティだよな?」
「そうだよ〜。それでね〜三層までは楽々ちんで行けたんだけど〜、どういうわけか三層のホワイトウィッチは丸坊主にされてたんだ〜」
「……ひとつも無かったという事かしら?」
ウノの問にサナが頷く。
すると、ようやく落ち着いたキィラが話し手を継いだ。
「それでどうしても水色のホワイトウィッチを手に入れたいフォルトナ様は四層へ行くと言い出しました」
「四層!? おいおい、試験の内容じゃ三層までのはずじゃ……」
「はい。しかし、ここはダンジョンです。誰の監視があるわけでもない。ルールなど最初からあってないようなものなのです。そう言ってフォルトナ様は……」
「四層に行った」
「はい」
「しかし不思議だわ。アナタ達二人の力量は知らないけれど、フォルトナさんとセシリアさんの二人が居れば四層くらいかすり傷程度でしょう? 一体何があったの?」
「それは──」
キィラは言い淀むと、ガタガタと肩を震わせた。
手で口許を押さえ、瞳を大きく見開いた。
今にも発狂しそうなキィラの肩を抱いて、サナがウノの目を見返した。
「化け物だよ〜……」
「化け物?」
「黒い獅子のような化け物が突然現れて、みんなやられてしまったんだよ〜」
「「────ッ」」
"黒い獅子"。その言葉を聞いたリオンとウノの頭に同じ映像が思い浮かんだ。
ユップ・ハーメルンの魔塔の地下にいた化け物。あれも確か黒い獅子だった。
そこまで思考して、リオンはホワイトウィッチの前にある足跡を見た。
「まさか、まさかまさかまさか……」
「リオン?」
「…………セシリアが危ねぇ」
もし本当に四層に現れた化け物が黒獅子ならば例えセシリアでも勝ち目はない。
あれはこんな浅層にいていいモンスターでは無いのだ。
リオンとウノが逃げられたのは奇跡以外の何物でもない。
そして奇跡は二度起こらない。
「──四層に行ってくる」
「!? 許可できないわ。アナタは私との契約で──」
「あぁ、分かってる。……けどな、オレにとっての最優先事項はセシリアの命だ。それを失うってんなら契約は無効だ」
リオンはそうとだけ言うと、キィラとサナが走ってきた方向に駆け出した。
それを見送ったウノが頭をガシガシと搔く。
「あぁもう!!」
やけくそ気味にホワイトウィッチを掴み取り、ポーチに入れるウノ。
彼女はリオンの後を追おうとした。
しかしその前にキィラが彼女の足を止めた。
「どうか、どうかフォルトナ様を頼みます……」
「えぇ。ただし、無事に連れ帰ったらアナタ達が手に入れたホワイトウィッチを半分貰うからね! わかった!?」
「──。……主の命に比べれば易いものです」
「あっそ」
そして、ウノは二人に背を向けると、フォルトナとセシリアが待つ四層へ向けて走り出した。
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