第24話 平穏を穿つ足跡
下層へ向かう階段に幾つかの足音が響き渡る。
それに混ざって大きな高笑いが鳴り響いた。
「二層も余裕でしたわね!!」
「ホワイトウィッチも大量でございます」
「この調子だと一位も夢じゃないかもね〜」
「それもこれも全部セシリアさんのおかげですわ!!」
「そんな! フォルトナさんもキィラさんもサナさんも。皆さんが頑張った結果ですよ!」
「それもありますわ!!」
再び、今度は先程よりも大きな高笑いが響いた。
それに対してセシリアは優しい笑みを浮かべた。
今回の試験でセシリアはフォルトナとその取り巻き達とパーティを組んだ。
彼女達もパーティを組んだ特別な理由は無い。ただ単純に誰よりも早くセシリアを誘ったというだけの話だ。
しかし意外や意外。数日前に結成されたパーティもは思えないほどにチームワークがしっかりしているのだ。
それはもともとフォルトナとその取り巻き二人の仲が良かったというのもあるし、セシリアの順応性が高かったというのもある。
だが最も大きかったのはフォルトナのリーダーシップに違いない。
彼女の的確すぎる指示が三人一人を四人のパーティに昇華させたのだ。
おかげで試験開始二時間足らずで二層を突破する事ができ、ホワイトウィッチも紫を数十本、青を十本弱入手していた。
「三層まで来たというのに、相変わらず変わり映えのない退屈な風景ですわね」
「仕方ありませんよ。ダンジョンなんですから。それより早くホワイトウィッチを探しましょう」
「そうですわね! ──キィラ、頼みますわ」
「はい」
フォルトナに指示を受け、彼女の取り巻きの一人である黒髪の少女が地面に手をついた。
キィラ・エセックスは手のひらに魔力を集中させる。
「──【魔力探知】」
魔法を唱えると、手に集めた魔力を周囲へ放出した。
放たれた魔力は遠く広がり、別種の魔力を持つ物に反応する。
「通路の先に広間があります。そこに動く魔力が五つ」
「モンスターですわね。ホワイトウィッチは?」
「断定はしかねますが恐らく。モンスターの近くに"青"レベルの魔力を保有するものが幾つかあります」
「お手柄ですわ。それじゃあセシリアさん?」
「はい。行きましょう」
セシリア達はキィラの案内で通路を進む。すると三分ほど歩いた先で広間を見つけた。
壁に張り付いたフォルトナが小声で言う。
「見つけましたわよ。モンスターが五体。コボルトですわ」
フォルトナの視線の先には人の体に犬の体毛を張り付けたようなモンスターがいた。
コボルト達は何やら言い争いをしているようで、襲撃するには絶好のチャンスだった。
「セシリアさん。合わせで行きますわよ」
「分かりました!」
「サナ。補助を」
「りょ〜か〜い!」
セシリアが力強く頷き、次いでフォルトナの取り巻きの一人である巻き毛の少女が緩く答える。
サナ・エディンはセシリアとフォルトナの背中に手を当てると、魔法を唱えた。
「──【風の翼】【炎の調】【魔力増強】」
するとセシリアとフォルトナの体がほのかに光り、二人の魔法が強化された。
セシリアとフォルトナは互いに目を合わせると、無言で頷く。
それから広間に飛び出した。
「『空を明かすそよ風よ 吾が手に集いて 白雲を別て』──【
「『赤く燃ゆる灼熱よ 吾が手に集いて 荒波を焦がせ』──【
二人の魔法が同時に放たれる。
するとフォルトナが放った炎がセシリアの風を呑み込んでより大きな豪炎となった。
広間を埋め尽くす程の炎は、そのままコボルトごとその空間を焼き払った。
少しして炎が消えると、そこには黒焦げになって倒れるコボルトがいた。
セシリアとフォルトナがハイタッチする。
「やりましたわ!」
「フォルトナさんの魔法凄かったです!」
「ふふんですわ!」
したり顔で胸を張るフォルトナとそれを褒め称えるセシリア。
しかしそんな二人に水を差す人物がいた。
サナがおずおずと手を挙げ、キィラが一歩前に出た。
「あ、あのぅ〜…………」
「お二方、少々やりすぎでございます」
「「……え?」」
勝利に浮かれていた二人が同時に首を傾げる。
サナがコボルトの死骸の奥を指さした。
「ホワイトウィッチも灰になっちゃったよ〜」
「「…………あ──!!!!」」
指摘され、初めてその事に気がついた二人が絶叫する。
そしてセシリアが申し訳なさそうに肩を落とした。
「ごめんなさい。私が力加減を間違えてしまったせいで……」
「いえ、セシリアさんのせいでは無いですわ。──そもそも青いホワイトウィッチなどそこいらにごまんと生えてますわ。そんなの一々採っていたら日が暮れてしまいましてよ」
「つまりわざと燃やしたと?」
「あったりまえですわ!! ──ですからさっさと水色のホワイトウィッチを探しに行きますわよ!!」
そう言って高笑いをするフォルトナ。
一行は水色のホワイトウィッチを求めて歩き出した。
「ん?」
ふとセシリアの目に獣の足跡が映った。
コボルトのものかと思ったがそれにしては大きすぎる。
そう、これはまるで──
「セシリアさん? 何をしてますの? 早くしないと置いてきますわよ!」
「あ、今行きます!!」
フォルトナに呼ばれたセシリアは思考を途中で遮って、パーティメンバーの後を追いかけた。
奇妙な足跡の事は記憶の片隅に追いやられてしまった。
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