第3話

「はぁ?」

「までって、誕生日までって、誕生日はいるの?」

 何を言ってるの? 

「知らない。入らなそう」

「そっかぁ、じゃあ今日中か」

 元彼は、チャンネルをスイスイ変えた。どのチャンネルも今の時間帯は、立て籠もり事件を取り扱っていた。

 カメラの位置が変わるので、マンションの微妙な角度変化を、見せて貰った。

 2階建てのウチのマンションは、建物真ん中に階段があり、右棟と左棟にわかれている。向かって左棟の端があたしの部屋、201号室だ。今はそこだけ部屋の明かりが付いていて、他の人たちは外にでも避難しているのだろうか?明かりが見えない。

 無事に生き延びたら、引っ越そう。

 


「テロリストの解放と、逃走用のヘリを準備しろ」

 元彼は、一旦片付けた包丁をとりだし、ベランダで要求を告げた。

「ウーウー」

 あたしも、口にタオルをされて、人質としている。

「て、テロリスト、ヘリ?」

 レインコートは動揺していた。

「どうして、金を奪って逃走しているのに、テロリストなんだ? あと、ヘリは運転できるのか?」

「うるさーーい」

 バシャッン。

 部屋に戻った。

 少し、外がどよめいた気がした。あまりにも突拍子も無い要求だったからか。

 確かに、運転出来るのか?

 というより、金を奪って逃走してるの、この人。

「ウーウーウー」

「わかった、わかった」

「ブハー。あんた強盗したの?」

「違うよ」

「金を奪ってるって言ってたよ」

 こちらに、目を合わせようとしない元彼。

「違うのよ」

「何が」

「聞いてくれる?」

 そういうと、一旦姿勢を正した。

 強盗犯は意外に素直だ。



 話はこうだ。

 昨晩、別れ話をした後、傷心で帰宅している途中。向こうから、走ってくるおじさんが一人。

 追われてるのかなくらい、全力疾走。おじさんになっても全力で走ることなんてあるんだなと、微笑ましく見守ってると、元彼の前で急ブレーキ。

 持っていたカーキ色のカバンを、元彼へ突き出した。

 何ですか? の意味でアゴを突き出すと

「お、お、横領してないのに。ゼェハァ、俺は横領、ハァ」

 横領と俺と言う単語が交互に発した。

「オウリョウ?」

「俺はしてない」

「はぁ」

「俺は、ゼェゼエ」

 おじさんの全力疾走の後で言葉が出なくなったらしい。

 ただ、向こうから人が数人駆けてくる音が聞こえると、

「これは、俺いらないから。ゼェゼェ、あなたに」

 カバンを突き出すと、元彼は思わず受け取って、おじさんは駆けて行った。

 そして、その後を数人の人が後を追いかけていったらしい。

 カバンの中身は大金だった。



「話をまとめると、おじさんは身に覚えの無いお金が振り込まれてた。それは会社の金で、引き出すと横領の容疑で追われてたから、あんたに預けたってこと?」

「そう、そしてそのおじさんは捕まってた。ニュースでやってた」

「それってあたしの会社の話だよね?」

 手足縛られてるので、驚愕を表現する方法はイモムシのようにジタバタするだけだった。

「そうなの? ○○商事だっけ」

 それは、わかってなかったのね。

「でも、何で立て籠もり? 山分けしたらいいじゃない」

「警察行けじゃないんだね」

 満面の笑みが、今じゃ立て籠もり犯かと思うと不気味に思う。

「別れた後に、お金渡すのはちょっとださいよ」

 いやいや、あたしは、いくらでももらいますよ。

「それより、サンマを食べよう。食べさせてあげるよ」

 さっきからいいニオイがしている。しかし、何でわざわざ立て籠もってるの?

 それに、縛られてるのに慣れてきたけど、あたしのこれ意味あるの?



「ホネ、骨、小骨」

「あぁ、はいはい」

 週末に、手足縛られて季節を感じるとは思わなかった。

「テロリストとヘリコプターは何?」

 質問は、不意を突く方が良い。

「そうやって、見えない角度から質問良くされたなぁ」

 白飯をかきこみながら、笑っていた。マイペースなのと、犬顔なのが好きになった所だ。今はこんなことになって恐ろしくむかついていた。

「だから、なんでこんなことになってんの? お金還したら終わりでしょ」

「それじゃダメなんだよ。立て籠もらなきゃ」

「何で」

 こうなると、頑固で口を割らない。理由を探すことは一端置こう。

 むかついたので

「ご飯とサンマ、一口づつ。あぁやっぱりサンマは大きめで」

 腹が減っていた。

「はいよ」


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