第4話
服をかぶせられたおじさんが、ワゴンに乗るニュース映像を見た。会社の金を横領した容疑で。
だが、本人に覚えは無く、知らずに振り込まれたらしい。
そんな幸せなことがあるのね。
神様が、お前はよく頑張ったから会社のお金を分けてあげよう。とでも、してくれたのかしら。
うーーん、なんか既視感。
次の映像は、その横領した金を強盗して、立て籠もってるマンションの映像に切り替わった。やはり右上にはLIVEの文字。
夜10時をまわり寒くなってきたのか、見物人の数は減っていた。警察関係者がうろうろしていた。
ニュースキャスターは、人質は立て籠もり犯の彼女であると、伝えていた。
正確には、元カノなんだけどね。
これをどう見てるのか? 元彼を見ると、テレビは見ずに、ジッとスマホを見ていた。
「何見てるの?」
「LIVE配信」
「何の?」
「これ」
床を指さした。
「今、これ配信してるの?」
あはははは、と声を出すと
「違う違う、近くの住んでる人がここを映しながら配信してるの」
「それを見てるの? あんたが特等席に座ってるのに?」
口をすぼめて、こちらを見つめ
「外からじゃないとわからないこともあるのよ」
なーーにーーが!!
縛られてなけりゃ、悪態をつくところだったが、立場上飲み込んだ。
そう言ってる間に、ニュースは終わり土曜日もあと少しの所まで来た。
あたしは椅子に座らされて、コーヒーを淹れてくれた。テレビが良く見える角度だったので、退屈はしなさそうだった。
「今日は、いろいろ付き合わせてゴメン。まだ最後にあるけど」
そこで、一端言葉を切ると、コーヒーを一口。
それ、あたしの分じゃ……
「もしかしたら、もしかするから」
言った意味がわからないし、コーヒーを飲まれて、何を言われたかよくわからなかった。
元彼は、常にスマホの画面をきにしていた。さっき言っていた、配信を随時チェックしていて、
「キタキタキタ」
や
「ヨシヨシヨシ」
などど、声を出していた。
加えて、少し外が騒がしいような気がしていた。
テロリストの解放やヘリの準備なんて、するわけない。
動機がわからない上に、人質が彼女だとばれたので、
そろそろ突入かもね。
発煙筒やらを投げ込まれて、黒ずくめの人達が10人くらい、ドアやらベランダから突入される。投光器がピカーーッと照らして、元彼の持ってる包丁をパーーッんと蹴られて、
『かくほーー』
叫ばれて終わりよ。
はぁ、どこかに引っ越す事考えなきゃ。
新しい出会いもあるかしら。
とりあえず、無事に終わりたい。
元彼は、イチオーギブソンのギターを持ち、ベランダ側の窓付近で、中腰の姿勢をとった。
あたしは唇を細めて、少し冷めたコーヒーをすすろうと、液面に唇が到達した時だった。
ガタン
シューー
玄関のほうから、音がした。
白煙が室内を侵食し始めた。と、同時にベランダからもガタンという音が聞こえ、シューと音がし始めた。
発煙筒が投げ込まれたようだ。
やっと、突入か。
ズズー
コーヒーをすすっていると
元彼は、
「じゃ、行ってくるよ」
ギター片手に、カーテンを跳ね上げ、窓を開けるとベランダに飛び出した。
ハラリとカーテンが舞い戻るので、シルエットしか見えないが、元彼はギターを構えて外に向いていた。
元彼の急な登場に投光器が強く照らし、白煙を吐き出す発煙筒は、盛りに盛っていた。
「聞いて下さい。『デートライン』」
ジャラーーン
と、音がすると元彼の歌声が響き始めた。
熱唱だった。
「かくほーー」
や、ドアをぶち破ろうとする音。
ベランダ側から登って来た人達の音。
発煙筒のシューシュー音。
その中で、熱く歌われた。
『デートライン』
タイトルを聞いて、初めてラブソングを作ったのかと思った。
日付変更線に意味はあるのか
ラインを超えろ
国境に境はあるのか
時代を変えろ
やはり、メッセージ色の強い歌だった。
デートをするかしないかの、ラインの話では無かった。
そして、その間に日付が変わり、日曜日になった。
黒ずくめの人達に、もみくちゃにされながら、『デートライン』を歌っていた。
包丁のように、蹴られたギター。
伴奏が無くなり、アカペラになった『デートライン』。
テロリストに年末はあるのか
ゾウはヘリコプターに乗るのか
もう、熱唱というより叫びだった。
最後はガムテープで、口を塞がれて終幕となった。
土足だぁ。
部屋の中があしあとだらけだった。
そうそう
早く解いて
も、さすがに思ったな。
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