それぞれの道

2年後。

華月と綾乃は、華月の高校卒業と同時に籍を入れた。綾乃は元気な女の子を産んだ。道場で本日の華道教室の準備をしていた華月は話掛けられる。

「パパァ!今日のおはな、なぁに?」女の子は華月に聞く。

「字は違うけど、友里(ゆり)とおんなじ名前の華だよ。」華月は答える。女の子は友里と名付けられていた。華月は友里(ゆうり)が八岐大蛇の呪縛から逃れられなかった事を忘れぬ為に、また最期に解き放たれた友里(ゆうり)の魂が生まれ変われる様にと願い、その名をつけた。そして、自分も幼い頃にその力を封印していなかったら、友里(ゆうり)と同じ様にその力に喰われていたのかも知れないと、決して他人事ではなく、ある意味自分のもう1つの未来が、友里(ゆうり)なのだと思っていた。友里(ゆり)は正座していた、華月の膝の上にちょこんと座る。

「おはな、いーにおい。」友里は華月に笑いながら言う。

「ダメよ。友里。パパの邪魔しちゃ。」綾乃は道場に姿を見せる。そのお腹には華月との2人目の子を妊娠していた。定期健診の為、綾乃は産婦人科に行ってきた所であった。

「お帰りなさい。綾乃さん。すみません、一緒に行けず。どうでした?」その日はマリアの母の店から華の納入のある日で華月は共に行けなかった。幼い友里も産婦人科の待ち時間に飽きてしまうし、2人で留守番をしていて下さいと綾乃が言ったのだった。

「ママぁ!おかえり。」友里は綾乃の足にしがみつく。

「ただいま。」綾乃は友里の頭を撫でると、華月の隣に腰を下ろし、エコー写真を見せる。

「順調ですって。」綾乃は笑顔で言う。

「そうですか。」華月は微笑む。

「ねぇ?コレ何?」友里はエコー写真を指差す。

「ママのお腹の中に赤ちゃんがいるのよ。友里はもうすぐ、お姉ちゃんになるの。」綾乃は優しく微笑みながら言う。

「友里、おねぇちゃんになる!」友里は無邪気に言う。華月と綾乃はお互いに微笑んだ。


慎司と鈴音は同じ大学に進学していた。昼休み、2人は外のベンチで

「綾乃さん、2人目を妊娠してるみたいよ。」鈴音は徐に慎司に言う。

「らしいね。華月も二十歳にして、2人の子持ちかぁ。凄いな。」慎司は言う。

「ねー。私達も頑張らなきゃ。」鈴音は言う。

「えっ⁈子作りを?」慎司は聞く。

「ちょ、バカ!」鈴音は慎司をバシっと叩く。

「ハハハッ。医学部は大変そうだな。」慎司は言う。鈴音は自分の能力と向き合い、その能力に過信する事なく、身体の仕組み、症状等、知識として勉強すべく、医学部に入っていた。

「難しいし、実習も多いし、課題も多いし大変だけど充実してるわ。」鈴音は笑う。

「薬学部は暇そうね。」鈴音は慎司に聞く。

「俺は、S大の名が欲しかっただけだからね。薬学部はおまけみたいなモンさ。だけど、ブラッディムーンやフルムーンといった薬について勉強しておくのもアリかなぁって。」慎司は笑う。

「そうね、統治者が大宝製薬を知っておくのはいいかもね。」鈴音は言う。

「後、性欲剤にも興味ある。」慎司はニヤニヤと笑うと、

「バカっ!」顔を赤くした鈴音に叩かれた。


沙希はプログラミングの勉強をする為、アメリカの大学に進学した。O大学はパソコン関連、ITに強く、名だたるプログラマーや、世界を震撼させる発明家、ハッカー等が卒業生にはいる。

「ハーイ!沙希。今夜パーティーがあるけど、一緒に行かない?」友達のサラは言う。

「興味ないわね。」黒縁眼鏡を掛けた沙希はパソコンのモニターを見ながら、キーボードを叩くとバッサリと断った。

「ノー、そんなんじゃ腐っちゃうよ。」サラは言う。

「今はプログラミングにしか興味ないのよ。けど、誘ってくれてサンキュー!」沙希は眼鏡を外してサラを見る。サラは沙希の素顔にドキっとした。

「勿体無い。」サラは言う。

「バカづきよりいい男じゃなきゃ、興味なんて湧かないわよ。」沙希は外を見ながら言うと笑った。


マリアはアニメーションの専門学校に進学していた。何より、漫画やアニメが大好きなマリアは、そこに携わる仕事がしたかった。休みの日はコスプレに夢中で、レイヤーの中では、プリンセスマリアの愛称で親しまれ、雑誌の取材が来る程であった。

「マリア!見てみて!マリア特集になってるわ。」友達の仁美は言う。

「次は何がいいですか?」マリアは仁美に聞く。

「う〜ん。ほぼやり尽くした感があるからね。マリア、いい声してるし、声楽もいいかもね。」仁美は言う。

「ウタ?ですか?」マリアは聞く。

「そう!」仁美は笑うとマリアはアニメの主題歌を歌い出した。美声に導かれ自然に人が集まる。歌い終えると拍手が鳴り響いた。マリアが

歌姫となる事は、もう少し先の未来の話。


「ねぇ!ギルドからの連絡はまだなの?」加奈は直人に言う。

「今、確認してるよ。」直人はスマホを操作する。

「ったく、いつもおっそいんだから。逃げられちゃうじゃない。」雑居ビルの屋上に身を潜めた加奈と直人は連続婦女暴行事件の対象者である、〝あかなめ〟を追っていた。加奈は神無月の鬼の力を人に役立てる為、直人と同じくギルドに所属した。

「来たよ。GOサインだ。」直人は加奈に言う。

「オッケー。」加奈は屋上から飛び立つ。加奈の背から、10本の角が出て、角同士の隙間を埋めると、角は羽と化す。加奈は大きく羽ばたいた。空には月が登っていた。



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judgement night 〜完結編〜 kazn @kaznhana

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