決着
華月が倒される少し前、加奈達は地上に出た。先程から地響きと、雷鳴が轟いていた。
「お兄ちゃん...。」加奈は洞窟を振り返る。
「一刻も早くここを離れるわよ。私達が足手纏いになってたんじゃ、話にならないわ。」沙希は加奈にそう言い聞かせる。
「うん...。でも、胸騒ぎがするの。ここで行かなかったら、一生後悔しそうな気がする。」加奈は沙希に言う。
「沙希の負けでーす。」マリアは言う。鈴音は頷く。
「...わかったわよ。でも、命の保証はないわよ。」沙希は言う。加奈は無言で頷く。沙希達は洞窟内に引き返した。
華月を倒した八岐大蛇は華月に背を向ける。その場を去ろうとした八岐大蛇は背後から凄まじい妖力を感じた。
「⁈」振り返るが華月は倒れたまま動かない。だが、確かに妖力を感じた。よく目を凝らして見ると、折れた紅蓮から、紅い糸の様に光が生じて、華月に流れ込んでいる。華月はゆっくりと立ち上がった。その髪色は紅蓮に燃え盛る炎の様に紅く染まる。華月はカッと目を見開いた。突如華月の周りを紅蓮の炎が取り囲む。その炎はやがて華月の背に円を描いて宙に舞う。
「バ、バカな⁈日輪の炎だと⁈」八岐大蛇は8つの尾に雷を迸らせる。華月はゆっくりと右手を上げると、折れた紅蓮はその右手に収まった。刀は形を変え、真っ直ぐな刀身を現す。その周りには燃え盛る紅蓮の炎を纏っていた。
「倶利伽羅の剣⁈」八岐大蛇はそう言うと、8つの尾を華月に向けて払った。雷が華月に襲い掛かる。華月は消えた。雷は壁に当たりドゴォオオンという音を響かせる。
「ギィヤァあああー‼︎」八岐大蛇は叫び声を挙げる。その声で倒れていた慎司、玉藻前、美代、直人は意識を取り戻す。が、4人共、四肢が動かない。八岐大蛇を見ると、8つの尾は斬り裂かれ燃えていた。その傍らには、倶利伽羅の剣を右手に携えた真っ赤な髪色の華月が立っていた。
「...目覚めた...か...。」美代は呟くとニヤリと笑った。
「か...づき...。」慎司もニヤリと笑った。
玉藻前も直人も華月の変わり果てた姿を見て笑みを浮かべる。燃え果てた尾の中から一振りの剣が姿を現す。華月はそれを左手に取った。
「あ、あれは...、天叢雲剣...。」玉藻前は言う。
「...せんぱ...い...。」直人は華月を見る。
「おのれぇええー!」八岐大蛇は華月に襲い掛かる。華月は八岐大蛇と交差する。7つの頭が一遍に吹き飛んだ。
「ガァァアアアー‼︎」残りの1つの頭は叫ぶ。華月はその1つの頭を真っ直ぐに見据える。
「せ、先輩!華月先輩、待って下さい!」友里の声色で頭は華月に言う。
「お願いだから、殺さないで!」八岐大蛇はその姿を友里の人型に変えた。ボロボロになった友里は涙を流しながら懇願する。
「お兄ちゃん?友里くん⁈」加奈の声がトンネルの入り口から聞こえる。華月以外の全員がその方向を見る。華月は丁度加奈に背を向ける様に立っていた。
「あぁ...。加奈ちゃん...。華月先輩に言ってくれ!殺さないでって!」友里は涙ながらに言う。
「お兄...ちゃん?」加奈は華月のただならぬ雰囲気を感じ取っていた。華月は振り向かない。
「...綾乃さん達は帰ってこない...。」華月は呟く。その言葉に全員綾乃の姿を目で探す。夥しい血を流して倒れている綾乃の姿が全員の目に映った。あまりの出来事に全員絶句する。
「達?僕は1人しか殺してない!」友里は言うと、
「黙れ‼︎」華月は友里を一喝した。
「...無駄の様だね...。ならばせめて貴様の大切な者を道連れにしてくれるわぁ‼︎」友里は加奈に襲い掛かる。華月は左腕を振り払う。友里の首は胴体と離れ地面に転がった。
「...先輩...ありがとう...。ようやく呪縛は終わ...る...。」友里はそう言うと霧の様に消えていった。その場には12個の光が現れ、天に登っていった。華月は倒れた綾乃の元にその歩みを進めると綾乃の前に跪いた。その髪色は黒に戻っていた。
「綾乃さん...、俺はこれから、どうしたらいい?」華月は綾乃に話掛けると綾乃を抱きしめた。誰も華月に声を掛けられなかった。天から光が降り注ぎ、華月と綾乃を照らす。
「如月 華月...。」光は華月に語り掛ける。華月は光を見上げる。
「我は閻魔大王...。この世とあの世の悪を裁く者なり。」光は言う。
「如月華月よ...。真の器でないお主が...、今日まで如月の鬼として...、その生業を果たしてきた事...、12鬼神の主として礼を言う...。貴殿の働きは賞賛に値する...。よって褒美を与える...。」光はそう言うと、綾乃を包み込む様に宙に浮かせた。やがて、綾乃の身体は眩い光を放ち、華月の前に立つ。
「...華月様...。」綾乃は微笑むと華月を抱き締める。
「綾乃...さん?」華月は綾乃の名を呼ぶ。
「ただ今戻りました。」綾乃は華月を抱きしめたまま言う。華月は綾乃を抱きしめて泣いた。
「奇跡じゃ...。」美代は天の光に手を合わせた。
「如月華月よ...。小さな命と傷ついた者達の快復は...我の感謝の気持ちだ...。ではさらばだ...。」光はそう言うと、天高く舞い上がり、12個の光となって四方に飛び立つ。その1つは舞い戻り、加奈の中にスッと入った。
「アレ⁈えっ?」加奈は自分の胸を見る。全員加奈を見る。
「お、お兄ちゃん、私、神無月の鬼を授かったみたい。」加奈は華月に言う。
「その様だな。案ずるな。俺が側にいる。」華月は笑う。天から光が再び降り注ぐ。
「...1つ伝え忘れた...。これまでの教訓を活かし、器内での鬼の適合、継承は以後無しとする。睦月は睦月、如月は如月とする。では今度こそさらばだ。」光は天に舞い上がり消えた。
「意外とお茶目でございますね。」綾乃は天を見上げながら言う。
「お兄ちゃん、今のはどういう事?」加奈は華月に聞く。
「その身に宿る痣と同じ鬼しか使えないという事だろう。今までは器があれば、12鬼神のどれでも適合が出来た。これからはそれが無くなるという事だ。それに継承も無しという事は、もしもの場合、子に継がせるのではなく、一旦閻魔大王様にその力は還り、閻魔大王様が新たに探し出して授けるという事だろう。」華月は言う。
「理解が早くて助かるぞ。如月華月よ。」天から声がする。
「まだいたんだw」沙希は笑うと皆笑う。
「ふ〜ん。とにかく、私は神無月の鬼って事よね?苗字如月だけどw」加奈は言う。
「そうだな。」華月は微笑む。
「ねぇ華月、小さな命ってまさか?」慎司は華月と綾乃を見る。華月と綾乃は顔を見合わせて照れた。
「先輩、やる事やってんすね。あ、美人秘書さん初めまして。」直人は華月と綾乃に言う。綾乃は会釈する。
「えっ?嘘でしょ?往復ビンタどころじゃないんだけど!」沙希は華月を睨む。
「オトメ心をフミニジラレマシタ!」マリアも華月を睨む。
「俺が何かしたか?」華月は慌てる。
「一先ずお先にお暇いたしましょう。」綾乃は華月の手を引くと、2人で同時に跳躍し、天井の穴から飛び出した。玉藻前と美代はそんなやり取りをニコニコと見ていた。
「コラ〜‼︎待ちなさい!」沙希の叫びが樹海にこだました。
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