百鬼夜行
「あ、いたいた!」沙希達は屋上で寝ていた慎司達を迎えに来ていた。
「もう!しんちゃんまで一緒になって寝ちゃってさ!鈴音、加奈ちゃん、しんちゃんと直人起こして。私はかづちゃん起こして来る。」沙希はそう言うと、ハシゴを登った。慎司も直人も起こされる。
「珍しいね。慎司くんまで寝るなんて。」鈴音は慎司に言う。
「あ〜よく寝た。」慎司は伸びをする。スマホを確認すると、時刻は15時半を超えていた。
「かづちゃん、起きて!」沙希は華月を起こす。
「...。」華月はまだ目を瞑っている。
「もぅ!マリア、落ち込んでたわよ。かづちゃん見に来てくれなかったって。」沙希は言う。
「...すまん。」華月は目を瞑ったまま謝る。
「マリアに言いなよ。さ、写メ撮りに行くわよ!」沙希は華月に言う。
半ば沙希に引きずられる様に、加奈のクラスに連行される華月であった。加奈のクラスには既にマリアがメイドの格好をして、写メを撮られていた。
「マリア、すまなかった。」華月はマリアに謝る。
「NO!想い出は返ってきません。」マリアは華月に怒った様に言う。
「どうすれば許してくれる?」華月は言う。
「私、メイド飽きました。しつじをやりまーす。かづき、メイドやりまーす。」マリアは笑いながら言う。
「それは面白いかも!」加奈は言うと沙希達もはしゃぐ。華月は引き返そうとするところを沙希、マリアに両脇を抱えられ、教室の奥に消えた。
「直人、覚えておけよ。沙希ちゃん達は怒らすと恐いぞ。」慎司は言うと、
「肝に銘じるっす...。」直人と慎司は華月に手を合わせた。暫くして、メイド姿の華月が姿を現す。
「何よ、下手な女子より女子力ありそうだわ...。」沙希達は華月のメイド姿に驚く。加奈のクラスメイト達はこぞって写メを撮りだす。
「よ、よせ。」華月は恥じらうも、その姿がまた皆を萌えさせた。
「ツ、ツンデレメイドや。」直人が言うと、皆、黄色い声を上げる。
「かづき、かわいすぎま〜す♪」執事姿のマリアは華月にキスをする。キャーという歓声と共に皆、一斉に写メを撮りだす。或いはビデオ撮影する者もいた。華月はマリアから離れる。その姿が益々ギャラリーを助長させた。
「せ、先輩、俺もいいっすか?」直人は華月に歩み寄る。皆ニヤニヤと笑う。
「いい訳ないだろう!」華月は俯く。
「お兄ちゃん、写メ撮ろ♪」メイド姿の加奈が腕を組む。
「美人姉妹だわwもぅ我慢出来ない!」沙希も加わる。俺も、私もとBBQ撮影会?は大盛況に終わった。
文化祭は終わり、打ち上げでO駅のカラオケ屋に集まっていた、加奈達は解散をするところであった。時刻は22時を回っていた。
「結局、友里くん、来なかったね...。」加奈は寂しそうに言う。
「そうだな。何か返事はあったか?」直人は加奈に聞く。加奈は昼間から友里にラインメールを送っていたが、既読もつかない状態であった。
「うぅん、未読スルー。」加奈は言う。
「そうか...。なぁ、加奈?」直人は加奈に問いかける。
「何?」加奈は直人の顔を見る。これからの戦いの事を考えると、直人は加奈に何かを伝えたかった。だが、昼間華月の話を聞いた直人は加奈に妖しの話はしなかった。出来る訳がなかった。妹を失った直人には、華月の想いが痛い程、わかっていたからだった。それ以外の感情も芽生え始めていたが、その想いを飲み込んだ。
「なんでもねぇよ!じゃあな!」直人は気を取り直して加奈の肩をポンっと笑顔で叩くとO公園へと歩き出す。不意に直人は後ろから抱きしめられた。
「お、おい。」直人はすぐにそれが加奈だとわかった。
「ゴメン。少しだけこのままで居させて...。」加奈は言葉を詰まらせる様に言う。少しの沈黙の後、加奈は離れた。
「ご、ゴメンね。直人。何か遠くに行っちゃう気がしてさ。わたしおかしいな...。」加奈の瞳には涙が溢れ出した。そんな加奈を直人は正面から抱きしめる。
「バカ。お前を残してどこにも行かねーよ。」直人は加奈の背中をポンポンと叩くと、身体を離す。加奈の手を優しく引いて、O駅まで歩く。
「気をつけて帰れよ。」改札の前で直人は優しく加奈に微笑んだ。
「うん...。ありがとう。」加奈はO駅の改札を潜り直人に笑顔で手を振るとホームへと歩き出した。加奈の姿を見送った直人は、
(さぁ、行くか!)決意に満ちた表情となり、O公園へと歩き出す。
O公園には、既に、華月、慎司、鈴音、沙希、マリア、美代が集結していた。
「先輩、遅れてすみません。」直人は華月達に頭を下げる。
「加奈を駅まで送ってくれたんだろう?すまなかったな。」華月は微笑む。
「さぁ、作戦会議だ。」慎司は言う。
「基本、百鬼夜行と戦うのは、華月と直人、俺の3人。鈴音、沙希、マリア、美代婆ちゃんはバックアップ。いいね?」慎司は言うと皆頷く。
「あそこの線路の向こう側に広大な畑が広がっておる。そこを決戦の場とする。」美代は北方の線路を指差す。
「儂等4人で東西南北に散り、この呪符を畑の端に貼り付ける。儂の合図と共に、結界を発動。早速配置についておくれ。」沙希、マリア、鈴音は頷くと、各々ポイントを目指す。
「ねぇ華月?」慎司は華月に声を掛ける。
「何だ?」華月は答える。
「綾乃さんは、いいの?」慎司は言う。
「...加奈が帰った時に誰もいないのは不自然だ。それに...。」華月はそこまで言うと何かを思い出す様に微笑む。
「それに?」慎司は聞く。
「綾乃さんて誰っすか?」直人は聞く。
「華月の美人秘書でくの一で、ナイスバディなお姉様さ。」慎司は直人に言う。
「マジっすか⁈...先輩がたんぱくなのは、そのお姉さんがいるからなんすね?」直人は笑う。
「まぁな。」と華月は笑った。
「珍しいじゃない?否定しないなんて。」慎司は華月に言う。
「無事に帰ったら話すよ。」華月は慎司に言う。畑の東西南北4隅から、花火が打ち上がる。美代はそれらを確認すると、結界を発動させた。暫くして4人はO公園に戻ってきた。
「これで一般人には何も見えまい。」美代は言う。
「じゃあ、行きますか。」慎司は華月と直人に声をかける。3人は結界のど真ん中に跳躍した。華月は妖気を解放する。気流が渦巻く。
「すげぇ。」直人は言う。
「まだまだこんなモンじゃないよ。さぁ、来たよ。」慎司は西の空を指差した。常人には見えないが、黒い雲に乗り、何百の妖しが蠢いている。
O公園の端で決戦の場を見ていた沙希達は、黒い雲がそこに近づくのを見た。
「あれが?」沙希は美代に聞く。
「あぁ。百鬼夜行じゃ。じゃが、心配はいらぬ。前人未到の苦行組手を制した者が
、2人もいるのじゃからな。もはや、あの2人に敵はおらんじゃろう。」美代は言う。4人は黙ってその方向を見る。
黒い雲は畑の真ん中に降り立つ。何百もの妖しが左右に捌ける。その真ん中を通り、友里は姿を現した。
「後夜祭へのご招待、感謝しますよ先輩。」友里はニヤリと笑う。背筋が凍るほどの冷たい妖力に直人は身体を硬くする。慎司にポンっと背中を叩かれ、その緊張は解ける。直人は頷く。
「弥生の鬼を取り込んだのか?」華月は聞く。
「...あぁ?あの女ね。何やら先輩と企んでいたみたいなんでね。いや、違うか。あの女が先輩を誑かしたのか。今は私の中におりますよ。」友里は笑う。
「...八神、百地恵理を覚えているか?」直人は友里に聞く。
「えぇ。覚えていますよ。実に貴重な天敵の妖力、ご馳走様でした。」友里はニヤリと笑うと直人は襲い掛かろうとした所を慎司に止められた。
「後で、1対1でやらせてやる。今は堪えろ。」慎司は直人に言う。
「それで配下は全部か?」華月は友里に聞く。
「えぇ。先輩の持つ如月の鬼が最後ですからね。全力で参りました。」友里は笑う。
「それを聞いて安心した。これで終わりにしたいのでな。」華月は笑う。
「終わり?全ての始まりですよ。あぁ、先輩にとっては終わりとなるか。」友里はフフッと笑う。
「あ、そうそう、先輩にも謝らなければいけませんね。ご両親は実に素晴らしかった。」友里は挑発する様に言う。
「...。」華月は黙り込む。
「すみません。まだ力の使い方がわからなかったものでね。勢い余って殺してしまいました。」友里は笑う。
(挑発しなくても、とっくに逆鱗に触れてるのに。)慎司は思った。
「口が過ぎましたかね。では始めましょう。」友里は言うと周りの妖し達は雄叫びをあげながら3人に襲い掛かる。直人は身構える。華月と慎司は微動だにしない。群がう妖し達の手が華月と慎司に届くか否か、妖し達は次々と倒れた。2人の後ろにいた直人は2人の力に身震いする。
「⁈」友里は異変を感じた。2人が妖しと交差する度に、妖しは次々と倒れていく。
「何だあの力は?」友里は呟く。
「何がどうなっている?」友里は目を見張る。
(美月の報告では、あんな力はなかったはずだ。何故あれ程までに力をつけた?それに、紅蓮はどうした?)
「お館様!このままでは全滅いたします!」側にいた妖しの1人は言う。
「狼狽えるな。陣を組め。」友里が合図すると、群がっていた妖しは華月、慎司それぞれを引き離す様に左右に別れた。
「面白い。乗ってやるか?」華月は慎司に言う。
「そうだね。直人、友里はお前に任せる。」慎司は言うと、直人はコクリと頷いた。華月と慎司はそれぞれ左右に分かれてお互いに距離を取る。左右に分かれた妖し達は2人をそれぞれ取り囲む様に布陣する。更にそこから東西南北に分かれ十字の中心に華月、慎司が来る様に四方を囲む様に布陣した。東西に陣取った妖しが襲い掛かる。華月も慎司も両サイドから攻められ、どちらの動きにも合わせる様に横を向く形になる。次に南北に陣取った妖しが襲い掛かる。四方から攻められる。
「面白い陣だが、苦行組手に比べれば単調だ。」東西の妖しが華月に届く瞬間、華月は最小限の動きでそれを躱し、一撃ずつ見舞う。間髪入れずに南北の妖しが到達するも、これまた最小限の動きで躱し撃破する。慎司もまた同じく確実に襲い掛かる妖しの数を減らしていく。
直人は友里と対峙する。
「加奈はお前を心配してた。」直人は言う。
「お前と仲良さそうじゃないか?如月の鬼の器でなければ、近づく事すらなかった女だ。お前にくれてやるよ。」友里は下卑た笑いを浮かべる。直人は友里の左頬に拳を喰らわした。友里は吹っ飛ぶ。
「お館様!」何体かの妖しが友里の元に馳せ参じる。次の瞬間、直人の背から出た、百足の形をした触手に縛り上げられ、その身体をバラバラにする。が、直人の腹に激痛が走る。友里の蹴りが直人の腹に炸裂していた。直人は倒れ込む。
「何とも醜い姿よの。加奈には見せられんなぁ。」友里は笑いながら直人を見下ろす。直人は苦虫を噛み潰した様な表情で友里を見上げる。
「醜くなどない。」声と同時に華月は友里を裏拳で吹っ飛ばした。友里は空中で体勢を立て直し、着地する。
「⁈バカな?」友里は辺りを見渡す。何百もの妖しが倒れていた。
「この短時間で全て倒したというのか?」友里は驚きを隠せない。慎司もまた華月と同様に、妖しを全て倒していた。
「先輩...。」直人は華月の優しさに泣きそうな顔で華月を見る。
「しっかりしろ直人。これから加奈を守るのはお前なんだから。」華月は微笑む。直人は自分の頬をパンッと叩くと立ち上がる。そしてその姿を大百足に変えた。
「何とも醜い姿よ...。」友里は蔑んだ目で直人を見る。
「はぁ、ガキだな。」いつの間にか華月の隣に来た慎司は言う。
「全くだ。」華月も相槌を打つ。
「ほざけ。青二才ども。」友里はその姿を白大蛇に変える。
「俺らは手出さないからさ。直人に任せたよ。」慎司は直人に言う。
「はい。」直人は答える。華月と慎司は巨大生物の戦いに巻き込まれない様、距離を取る。2体の巨大な生き物は互いに衝突する。2体はフィールドを駆け巡り、やがて大百足の足は白大蛇の身体を絡め取り、直人の牙は白大蛇の頭を捉える。決着かと思われた時、動きが止まる。
「ん?何だ?」遠目で見ていた慎司はその動きに違和感を覚える。
「加奈⁈何故ここに!」華月の身体は自然に走り出した。
「...あ、あ...。」その足元には、腰を抜かした加奈がいた。白大蛇は友里の姿に戻る。
「加奈ちゃん!」傷ついた友里は加奈に駆け寄る。
「ゆ、友里くん⁈」腰の抜けた加奈は、自分に駆け寄る友里を腕で抱き留める。
「あ、アイツに!直人にやられた!」友里は頭上の大百足を指差す。
「加奈そいつから離れろ!」華月は加奈に叫ぶ。
「お、お兄ちゃん⁈む、無理。腰が抜けちゃって。」加奈は何が何だかわからなくなりながらも上を見ながら言う。
「違う‼︎友里から離れろ‼︎」華月は加奈に叫ぶ。
「えっ⁈」加奈は自分の腕の中の友里を見ると、そこには下卑た笑みを浮かべた友里の姿があった。友里は白大蛇に姿を戻す。その胴体には加奈が巻かれていた。加奈は恐怖と絶望の余り気絶した。
「おっと、誰も動くなよ。動いたらこの娘の身体は粉々になる。」友里は言う。
「やめろ‼︎」直人は言う。
「ヤバかったよ。流石は我が天敵。さぁ、平伏して貰おうか?」大蛇の友里は言う。直人は言われるがままに、その身を地面に這う様に低い体勢となる。次の瞬間、白大蛇の牙は大百足の
硬い胴体を貫通した。直人は身を捩る事もせずに、ただじっと耐えている。自分の大きな図体で暴れれば、加奈を傷つけてしまうかも知れないと思ったからだ。
「直人!」華月は叫ぶ。やがて、直人は人型に戻った。華月は直人に駆け寄る。
「直人!直人!」華月は必死に声を掛ける。
「せ、先輩、何やって...んす...か...。加奈...を...。」直人は力尽きた。慎司は微動だにせず隙あらば加奈を奪還しようとしていた。が、一寸の隙もなく動けずにいた。白大蛇は突如その身を3m位に小さくした。だが、その胴体には依然として加奈を巻きつけたままだ。
「形勢逆転ですかね。さあ、先輩もコイツと同じ目に合って貰いますよ。言わなくてもわかると思いますが、このサイズでも、妹さんを粉々に砕くのは簡単なのでね。さあ、平伏せよ。如月の鬼。」友里は華月に言った。華月は言われるがまま、膝を地面に付き四つん這いとなる。白大蛇の牙が華月の背に突き刺さる。腹まで貫通した。
「華月!」慎司は声を上げて動こうとする。
「動くな‼︎動けば兄弟諸共死を与える。」友里は慎司に言う。慎司は苦悶の表情でその場に留まる。
「ぐふっ!」華月は血を吐いて倒れ込む。華月の身体から光が発せられ、球体となり友里に入り込む。
「素晴らしい!くっ、ハハハハっ!コレで全ての鬼神の力は我に備わった。最早貴様らに用はない。さらば!」友里は黒い雲を呼び寄せると、加奈をその身に巻いたまま雲に乗り去って行った。慎司は加奈を人質に取られ、一歩も動けなかった。
「華月!直人!」慎司は2人に駆け寄る。2人共夥しい量の出血量で、今にも息絶える所であった。
「鈴音ー!」慎司は大声で結界の外の鈴音を呼ぶ。異変に気づいた全員が慎司の声のする方へ走る。そこには横たわった華月と直人、その傍に2人に必死に声をかける慎司の姿を確認した。慎司は鈴音の姿を確認すると、
「2人共ヤバい‼︎早く!」と鈴音に言う。鈴音は2人の真ん中に入り、右手を華月に、左手を直人に翳す。鈴音の手は淡い光を放ち、2人の傷を塞いでいく。やがて、直人が目を覚ます。
「こ、これは?」直人は自分の身体を見る。牙で開けられた風穴は塞がっていた。
「危ない所だったぞ。」慎司は胸を撫で下ろす。
「ダメ!華月くんが起きない!」鈴音は慎司に言う。
「傷口は塞がっているのに!意識が戻らない!」鈴音は続ける。その手を美代は止めた。
「ありがとう鈴音ちゃん。別の要因がある。」美代は静かに言う。美代は異界の門を呼び出す。
「一度如月家に戻るぞ。」美代は言うと皆頷く。
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