失踪

直人はO駅の繁華街にあるゲームセンターに来ていた。

(腹減ったな...)直人は空腹を覚えて、スマホを見ると、17:30を回っていた。何の因果か、昼間直人が倒した2人組も同じく、ゲームセンターに来ていた。

「おい、アイツ...。」2人組は直人に気づく。

「後つけて、リベンジだな。」2人組は互いに頷く。直人はゲームセンターを後にする。2人組は適度に距離を取りながら、直人を尾行する。やがて、人気のない大きな公園に着く。日は落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。直人は公園の中に入る。

「お、おい、何か変じゃね?」1人が言う。

「近道なんだろ?行くぞ。」もう1人が言うと、2人は尾行を続ける。やがて公園の中の池に到達する。池を横断出来る様に低い橋が掛かっており、直人は躊躇なく進む。池の周りには背の高い葦が生い茂り視界を遮る。

「あれ?どこいった?」夢中で後をつけていた2人は橋の真ん中辺りで直人を見失った。葦のせいで周りは見えない。

「おい、帰ろうぜ。」不意に気味が悪くなった2人は引き返そうとその身を翻す。後ろからズルっ、ズルっと何かを引きずる音と、キシキシと言う音が近づいたかと思うと、2人は何かに襲われた。辺りは静寂を取り戻す。2人の流した血だけがその場に残っていた。


翌日、N高は臨時の全体朝礼が行われた。2年生の男子生徒2人が昨日から行方不明になっていると校長は話した。既に警察に捜索願いが出されているとの事であった。教室に戻った加奈達は席に着く。担任の鈴木は行方のわからない2人に関する些細な事でも知っている者は教えて欲しいと言った。直人は机に突っ伏していた。朝のホームルームを終え、鈴木は直人の前に来る。

「百地、起きろ。校長先生がお呼びだ。」鈴木の声に直人は反応しない。

「百地!」鈴木の大声に皆ビックリした様子で見る。直人はかったるそうにその身を起こすと鈴木を睨む。

「校長室に来い。警察の方が話したいそうだ。」鈴木はそう言うと、教室を出ていく。直人は立ち上がると、教室を出ていった。

「警察って...百地くん何かあるのかな?」加奈は側に来た友里に聞く。

「わからない。昨日パン販売所でモメたのは噂になってるみたいだけど...。」2人は直人が出ていった入り口を見ていた。

直人は校長室のドアをノックする。どうぞと中から声が聞こえ、失礼しますと直人は中に入る。中には校長先生と担任の鈴木、警察官が2人いた。

「警察の方が君に聞きたい事があるそうだ。」校長は直人に言う。

「百地 直人くんで間違いないね?」警察の1人は聞く。

「はい。」直人は答える。

「少しお話を聞かせてくれないかな。この学校の2年生の生徒2人が昨夜から行方不明になっている。君は昨日O駅近くのゲームセンターにいたね。店員さんに話を聞いたんだが、実はこの2人もそのゲームセンターにいたんだ。何か知らないかい?」警察は直人に聞く。

「いいえ。2人もいたんですか?」直人は聞く。

「そうなんだ。君は午後3時位からいたみたいだけど、2人と面識はあるのかい?」もう1人の警察が聞く。

「...昨日、学校のパン販売所でモメました。」直人は正直に言う。

「何があったんだい?」警察は聞く。

「昼ご飯を買いにパン販売所に並んでいたら、2人が騒いでいたんです。周りの人達も迷惑そうでした。2人はふざけあって、俺にぶつかって来たんです。注意するつもりでいたら殴られました。2対1だったので、恐くなって応戦しました。無我夢中で2人をやっつけました。」直人は言う。

「何で昨日は早退したの?」警察が聞く。

「...鈴木先生がロクに調べもせずに、まるで俺が悪いみたいに職員室に来いって強引に腕を引っ張って。それで気分が悪くなって早退したんです。」直人は言うと鈴木は目を逸らす。

「どういう事ですか?鈴木先生。」校長は鈴木に問う。

「あ、いや。」鈴木は言い淀む。

「先生方、それは後でそちらで解決して下さい。」警察の1人が言う。

「で、君は何時頃、ゲームセンターから帰ったの?」警察は直人に聞く。

「17時半位だったと思います。」直人は言う。

「2人とその後会った?」もう1人の警察が聞く。

「いいえ。」直人は答える。

「ありがとう。ご協力を感謝します。授業に戻っていいよ。」警察は言う。直人は校長室を出ていく。

「彼の話に嘘はありません。街中の防犯カメラ、ゲームセンターの防犯カメラに彼と行方のわからない2人は映っていました。が、双方が接触する事はありませんでした。時間も彼の言った通りの時間です。」警察は校長に言う。

「彼が嘘は言っていない事を証明する為に、カメラの事は黙っていたんですか?」校長は聞く。

「すみません。その通りです。彼の話は信用出来る。行方のわからない2人は事件に巻き込まれている可能性も含めて、捜査していきます。引き続き情報提供のご協力を宜しくお願いいたします。」警察官2人は頭を下げると、校長室から出て行った。

「いやはや、警察の聞き取りと言うのは凄いものですね。」校長は感心していた。鈴木はバツが悪いのか俯いている。

「鈴木先生。昨日の出来事の報告を何故怠ったのですか?幸いにも、双方に怪我はなく、無事でしたが、これはイジメや暴力事件に発展しかねない重大な事件です。あなたは先入観で彼が加害者と決めつけていませんでしたか?教師は常に公平な物の見方をしなければなりません。教育委員会には報告いたします。」校長は言う。

「返す言葉もありません。申し訳ありません。」鈴木は頭を下げる。

「もうお行きなさい。」校長は言うと、鈴木は力なく校長室を出て行った。


直人は教室に戻ってきた。授業は自習となっていた。直人は席に座る。

「百地くん、大丈夫?」加奈は声を掛ける。

「あ?あぁ...。」直人にはそれが意外であった。自分に躊躇なく、話かけてくる人など、ここ何年もいなかった。

「なんて言うか、災難だったわね...。」加奈は言う。

「ほっとけや。」直人は言うと少し笑った気が加奈にはしていた。

「あれっ?今、笑ったでしょ?」加奈は直人に言う。直人は答えず机に突っ伏した。

「...。」そんな直人を見て、加奈は微笑む。

(意外にツンデレなのかも。)加奈は心の中で思った。


その日の夜、華月は自室で本を読んでいた。スマホが鳴る。美月からの着信であった。

「華月です。」華月はすぐに出た。

「お久しぶりね。今、大丈夫かしら?」美月は華月に聞く。

「はい。」華月は答える。

「結論から言うわね。一年前にあなたに話した予定は全て白紙となるかも知れないわ。」美月は言う。

「⁈何故?」華月は聞く。

「あのお方がその姿を突然眩ましたのよ。もう2ヶ月になるわ。誰も行方がわからないの。1日2日フラっといなくなる事は今までもあったわ。でも、こんなに長く姿が見えないのは初めて。」美月は言う。

「連絡もないのですか?」華月は聞く。

「そうなのよ。こちらから連絡を入れても、繋がらないし、誰にも返信はないの。」美月は言う。

「捜索は?」華月は聞く。

「してはいるけど無駄ね。その気になれば、色んなものに化ける事が出来るわ。誰もその正体には行きつかない。」美月は言う。

「一体どういう事だ...。」華月は考え込む。

「新月まで後5日。あのお方が元服を迎えられる日でもある。その日に完全なる復活を遂げようとされていたのは確かよ。」美月は言う。

「でも、何かしらのトラブルがあった?」華月は聞く。

「えぇ。私の易では、あのお方は元服前に大凶のお告げが出ているの。それこそ命に関わる様な大きなものがね。」美月は言う。

「命に関わるって...。美月さんの今までの話からは、対等に戦えるものがいるとは思えないんですが?」華月は聞く。

「何も戦いだけとは限らないわ。事故も該当するし、天災もそうね。でも...。」美月は言い淀む。

「でも、何ですか?」華月は聞く。

「今は止めましょう。明日会えない?少し気になる事もあるし。」美月は聞く。

「わかりました。どこに行けば良いですか?」華月は言う。

「O駅東口のH神社で会いましょう。時間は19時でどうかしら?」美月は聞く。

「わかりました。では明日。」華月は言う。

「わかっていると思うけど、あなた1人でね。では、明日。」美月は言うと電話を切る。

(どういう事だ?2ヶ月前?...。学生であれば、夏休み位か...。加奈のクラスに転校生が来たと言っていたな。時期的にはリンクしているが...。)華月は考える。華月の部屋をノックする音が聞こえる。

「お兄ちゃん、いい?」加奈の声が聞こえる。

「あぁ。どうぞ。」華月は答えると、加奈が手に衣類を持って入ってきた。

「コレが執事の衣装なんだけど、ちょっと来てみてくれる?私、外で待ってるから。」加奈は笑顔で言うと華月に衣装を渡して部屋の外に出る。華月は加奈の持ってきた衣装に袖を通す。

「いいぞ。」華月は加奈に声を掛けると加奈は部屋に入る。

「それでLLなんだけど、丁度良さそうね。慎司くんも同じ位だよね?」加奈は華月に聞く。

「あぁ。」華月は衣装を脱ぎ出す。

「ゴメンね。邪魔しちゃって。本読んでたんだよね。」加奈は言う。

「あ、あぁ。」華月は答える。

「ありがとう。じゃあお休み。」加奈は華月から衣装を受け取ると、足早に部屋を出ようとする。

「加奈。」華月は加奈を呼び止める。加奈は振り向くと、

「なぁに?お兄ちゃん?」と華月を見る。

「たしか、加奈のクラスに転校生が来たと言っていたな。どんなヤツだ?」華月は加奈に聞く。

「...まだ、よくわかんない。でも意外にツンデレなのかも。」加奈は昼間直人が微かに笑った事を思い出しふふっと笑う。

「そうか...。」華月はそれ以上何も言わなかった。

「お休み、お兄ちゃん。」加奈は華月に言うと、部屋を出て行った。

(恐らくは俺と慎司にぶつかりに来たアイツ...。でも、何の力も感じなかった。いや待て、俺や慎司も普段は極限まで抑えている。同じ様に抑えられると考えるべきだな...。)華月は椅子から立ち上がると、道場に向かった。


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