転校生と品評会と
加奈と友里のクラスに転校生が来ていた。担任の鈴木 修(すずき おさむ)先生は皆に言う。
「あ〜今日から、ウチのクラスに1人仲間が増える。自己紹介を。」隣の男子生徒に言う。
「百地 直人(ももち なおと)です。」直人はぶっきらぼうに言う。態度の悪い生徒だなと修は思ったが敢えて表情は変えずに、
「えっと、席は...1番後ろの席に着いて下さい。」修が言うと、直人は1番後ろの席に座る。
「宜しくね。」隣の加奈は直人に話しかける。
「あぁ。」直人は表情を変えずに言った後、机に突っ伏した。
昼休み。誰とも関わろうとしない直人は、1人でパンを買いに食堂前に来ていた。混み合っているパン販売の列に直人は並んでいた。直人の前に並んでいる上級生と思われる男2人組が先程からふざけ合って、幾度となく周りの人にぶつかりそうになる。周りも迷惑していた。度が過ぎた1人が後ろの直人にぶつかる。
「あ、わりぃ。」ぶつかった上級生は直人に謝る。次の瞬間、直人はその上級生の胸ぐらを片手で鷲掴みにした。
「...さっきから、ウゼーんだよ。周りの迷惑考えろ。」直人は眼光鋭く上級生に言う。もう1人の上級生が止めに入る。
「謝ったろうが!離せよ!」直人の手を胸ぐらから離す。胸ぐらを離された上級生は直人に殴りかかる。直人は殴られた。が微動だにせずに、ニヤリと笑った。上級生の膝に蹴りを喰らわす。崩れた上級生の顔に蹴りを入れる。上級生は気絶した。
「テメェ!」もう1人が殴りかかる。今度は懐に飛び込み肘を鳩尾に入れる。上体の前のめりになった上級生に直人はクルリと回転して、肘をこめかみに叩き込んだ。上級生は倒れた。2人を倒すのに1分と掛からなかった。周りがざわつく。パン販売の列は崩れ、皆直人を敬遠する様に離れる。直人は平然とパンを買い、その場を後にした。
「何あれ?」鈴音は沙希に聞く。
「トンガリたいお年頃なんでしょ。」沙希は言う。
「あざやかでした。」マリアは言う。
「確かに喧嘩慣れしてそうね。」沙希は言うとパンを買う。2人もそれに続く。誰が報告したのかわからないが、体育教師が数名パン販売所に来て2人を保健室に連れて行った。
教室で、パンを食べ終えた直人は机に突っ伏した。暫くして、修が入ってきた。直人に一直線に向かい、
「百地、起きてくれ。」と言う。直人は微動だにしない。
「おい、起きろ!」修は直人の肩を揺する。直人は気怠そうに起きた。
「お前、パン販売の所で喧嘩したか?」修は直人に聞く。
「喧嘩?あれは常識のない奴への、注意と正当防衛だ。」直人は言う。
「ちょっと職員室に来い。」修は言う。
「嫌だね。用があるなら、自分で来いとアイツらに言えよ。」直人は机に突っ伏した。
「いいから来い!」修は強引に直人の腕を掴み起き上がらせ様とする。直人はその腕を振り払った。その眼光は鋭く、修は一瞬怯んだ。
「先生、力づくかよ。事実を調べて出直せよ。」直人は鞄を持つと、教室を出ようとする。
「ま、待て!どこ行くんだ。」修は止める。
「暴力教師のお陰で気分が優れないので、早退します。」直人はニヤリと笑うと、その場を後にした。クラスメイト達は呆気に取られていた。
華月と慎司はうどん屋から帰ってきて校門を過ぎた所で、誰かが玄関から出て来たのが見えた。
直人は考え事をしていた。
(ろくな生徒、ろくな教師がいないな。全くふざけた連中だ。)前から歩いて来る、華月と慎司に気づく。
(外に食べに行ったのか?ルールも守れない輩がまた2人。少しお灸据えてやるか。)直人はそう思うと2人に気づかないフリをして、わざと2人にぶつかる様にその進路を取った。2人は話をしていて、直人に気づいていない。
(さぁ、喰らえ!)直人は勢いよくぶつかりに行く。だが2人共すれ違う。避けた様子は無いのに、身体と身体がすり抜けた様な感覚に陥る。
直人は思わず振り返る。華月と慎司は話をしながら、玄関に消えていった。
(何かしたのか?ぶつからない訳がない。アイツら何者だ?)直人は考えながら、校門の外に消えていった。
「さっきの何だろう?」慎司はわざとぶつかりに来た、直人の事が気になった。
「慎司のファンじゃないのか?」華月は言う。
「口実作りにって?そんなのは女子でお願いしたいね。」慎司は笑う。
「中々に面白そうなヤツだな。でもあんなヤツいたか?」華月は慎司に聞く。大体目立ちそうなヤツは慎司も華月も把握していた。
「今時、高校デビューかしらねw」慎司は笑う。
「...。」華月は1人考えに耽った。
華月と慎司は屋上に向かった。そこには沙希達3人がいた。
「あ、来たきた。」沙希は言う。華月と慎司はレジャーシートに腰を下ろす。
「さっきさ、パン販売所で一悶着あってさ。」沙希は話出す。
「何があったの?」慎司は沙希に聞く。事の一部始終を見ていた、沙希達3人は慎司と華月にありのまま話す。
「...もしかすると、さっきすれ違った...。」慎司は華月に言う。
「かも知れんな。」華月は答える。華月のスマホが鳴り出す。加奈からの着信だ。
「もしもし。」華月は電話に出る。
「あ、お兄ちゃんいまどこ?」加奈は言う。
「屋上だ。」華月は答える。
「皆いる?行ってもいい?」加奈は聞く。
「あぁ。他のヤツに見られるなよ。」華月は言うと電話を切る。
「加奈が来る。」華月は皆に言うと、鍵を開けに行った。
「珍しいね。加奈ちゃんが来るなんて。」鈴音は言う。
「そうね。」沙希は答える。暫くして、屋上の扉が開く。そこには、加奈と友里が姿を現した。友里の登場に華月以外は困惑する。
「ごめんなさい。友里くんを連れて来てしまって。」加奈は皆に謝る。
「八神 友里です。皆さんの秘密は守りますので宜しくお願いします。」友里は皆に頭を下げる。
「まぁ、座りなよ。何かあったの?」慎司は加奈に聞く。加奈と友里はレジャーシートに腰を下ろすと、
「新しい転校生の事でちょっと...。」加奈は言う。
「転校生?ホント、この学校って、転校生多いわよね。」沙希は笑う。
「校長先生は来る者拒まずらしいよ。」慎司は笑う。
「で、どうした?」華月は加奈に聞く。
「百地 直人くんて男子で、私達のクラスに入って来たんだけど、早速、喧嘩があったらしいの。」加奈は言う。
「今、その話してたトコよ。」沙希は言う。
「かなのクラスですか。彼はバイオレンス。」マリアは言う。
「私の席の隣なのよ。お兄ちゃん、どうしたらいいかな?」加奈は華月に聞く。
「必要以上に関わらなければ、大丈夫だろう。何かあれば俺を呼べ。」華月は加奈に言う。
「解決だね。それだけ?」慎司は笑いながら、加奈に聞く。
「ううん、皆にお願いがあって来たの。中々5人勢揃いする事ってないから。」加奈は言う。
「文化祭の日に皆で写メ撮ってほしいの。」加奈は笑顔で言う。
「先輩達はBBQと呼ばれていて、全校生徒の憧れの的なんです。そんな先輩達との想い出に是非!」友里は興奮気味に言う。
「写メくらいいいんじゃない?」鈴音は言う。マリアも沙希も頷く。
「実は、私と友里くんで話したんだけど、当日、私達のクラスは執事、メイド喫茶をやる事になってて、どうせなら、お兄ちゃん達にもその格好してもらって、写メを撮るのどうかな?って話になって。」加奈は笑顔で言う。
「面白そうね。」沙希は言う。
「わたしも賛成でーす。」マリアは笑顔で言う。
「皆でやるなら私も。」鈴音も笑う。
華月と慎司は顔を見合わせて、頷く。
「やったー‼︎」友里と加奈は喜びながら2人で抱き合う。
「あんた達仲いいわね。」沙希は言う。加奈と友里はハッとなって離れる。友里と加奈は顔を見合わせてお互いに頷く。
「実は、私達付き合ってます。」加奈は恥ずかしそうに言う。華月は微笑む。
「えっ?」沙希は2人を見る。
「おめでとう!」鈴音は自然に言葉が出た。
「加奈ちゃんに先を越されるとは...。」沙希は言う。
「ねぇ?かづちゃん、私達はいつ付き合うの?」沙希は華月に言う。
「ちょっと待ってくださーい。かづきは私と付き合いまーす。」マリアは沙希に言う。
「始まったか...。」華月は徐に腰を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ!」沙希は華月に言う。
「ボチボチ時間だ。」華月が言うと、昼休み終わりの予鈴が鳴り響く。皆レジャーシートを片付け出した。
放課後、華月は華道部の顧問、河原先生に呼び出されて、華道部の部室に向かう。中には何人かいる様だった。ノックをして扉を開ける。
「華月先輩!」2年の原田 由香里(はらだ ゆかり)は華月の姿を見て嬉しそうに席を立つ。
「お待ちしていました!」部長の渡辺 奈美(わたなべ なみ)も席を立った。一年生の向田 愛子(むこうだ あいこ)も席を立つ。華月が知るのはこの3人で、他にも部室には5、6人いたが、後は内申の為の幽霊部員であった。
「嘘でしょ?BBQの華月先輩じゃない?」知らない女子生徒はヒソヒソと話出す。
「華月先輩。こちらにどうぞ。」愛子は華月に奥の席を案内する。華月は手で挨拶すると奥の席に座る。
「すみません先輩。お忙しいのにお呼びたてして。」部長の奈美は言う。
「俺は忙しくはない。」華月は奈美に言う。部室の扉が開く音がする。顧問の河原先生が入ってきた。華月を見るや否や、
「お待たせ!華月くん久しぶりね!」河原先生は笑顔で言う。
「お久しぶりです。」華月は頭を下げる。華月と鈴音は3年生になり、7月の頭で既に部活を引退していた。
「はい、じゃあ始めましょう。」河原先生は言う。
「皆さんお疲れ様です。今年度の文化祭のお話をいたします。」奈美は言う。
「今年度は例年通りではなく、品評会とします。最優秀作品には、特典を用意してます。」奈美は言うと皆ざわつく。
「本日、前部長の華月先輩に起こしいただいたのも、今年度の品評会と関係があります。先生お願いします。」奈美は河原先生に言う。
「ここからは、私が説明するわね。まず皆が1番気になっているであろう特典ですが、来月の京都で行われる、日本華道連盟の品評会に招待されます。」河原先生が言うと皆ざわつく。
「これは日本華道連盟副会長、如月流華道家元である、華月くんのご厚意で、何と、旅費は既にご寄付いただいてます。」河原先生が言うと皆奇声を発する。
「えっ?どういう事?ただで旅行行けるって事?」幽霊部員の1人が言う。
「ヤバいね!」またも幽霊部員の1人は言う。
「既に校長先生にも、許可は取ってあります。」日本華道連盟会長の伊集院 宗光より、校長宛てに連絡があり、華道を学ぶ良い機会として是非部員の生徒にお越しいただきたいと話があった。
「ここからは華月くんお願い。」河原先生は華月に言う。華月は立ち上がるとお辞儀をする。
「日本華道連盟は、華道を広める活動をしております。誰でも華と触れ合い、想いのままに活ける事こそ、連盟員一同が最も大切にしている事であります。」由香里、奈美、愛子の3人は華月の話を真剣な眼差しで聞いている。幽霊部員達も華月の話を黙って聞く。
「本日お集まりの皆さんも、中には内申の為に所属している人もいるでしょう。ですが、それは当校の自由な学風で、悪い事ではありません。2年前には文化祭の前でも、こんなにこの部室に人が集まる事もなかった。ねぇ?先生?」華月は笑う。
「そうねぇ。」河原先生も笑う。
「それが少しずつ、増えてきて今やこんなに沢山の人がいる。」華月は部室に集まった部員達を見る。
「チャンスは皆に平等に。そこから才能が開花する事もあります。私は今回の品評会の審査員をさせていただきます。公平を記す為、私は皆さんが活けているところは拝見いたしません。作品も匿名でお願いいたします。皆さんの活け終わった華のみを見て判断いたします。ですが、忘れないで下さい。華はどんな手技で、どんな想いで活けられたのか私に教えてくれます。テーマは当日、河原先生にお知らせいたします。皆さんの作品を心より楽しみにしております。」華月は言い終えると頭を下げる。自然と拍手が巻き起こった。
「先輩最高!真面目にやります!」幽霊部員の1人が言う。私も私もと皆後に続く。華月は微笑んだ。
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