judgement night 〜完結編〜
kazn
加奈と友里とBBQ
加奈は華月達の高校へと進学していた。新生活となる1学期は加奈にとっては、真新しいものばかりで、目まぐるしく終わり、季節は2学期を迎えていた。学校全体が文化祭の準備で活気がある。そんな放課後の体育館。加奈は中学と同じく、バスケ部に所属していた。文化祭の招待試合、新人戦が近い事もあり、バスケ部はその練習に熱も籠っていた。紅白戦の最中であった。ピィーッ!笛が鳴り響くと、新キャプテンの小西 美香(こにし みか)は加奈に声を掛ける。
「真希に代わって加奈ちゃん!レギュラー組のPGで入って。」美香は言う。PG(ポイントガード)と呼ばれるポジションはゲームを組み立てる、言わば司令塔の様なポジションである。加奈は言われた通りに入ると早速ボールは加奈の元へ。ゆっくりとドリブルを始めた加奈は、いきなりそのスピードを上げる。相手を1人置き去りにし、外側にいた味方にパスを出すと、ワンツーでボールはまた加奈の元へ。そのままゴール前に切り込み、シュート体制に入る。ディフェンスは2人がかりで加奈のシュートコースを塞ぐ。加奈は構わず、シュートをすると見せかけて、直前で後ろの味方にノールックでパスを出した。フリーの味方は3ポイントラインからシュートを放つ。ッザ!ネットを揺らす音がする。加奈はシュートを決めた味方とハイタッチする。相手のボールで試合再開。味方の激しいチェックから、相手は苦し紛れに前線にパスを出す。加奈は冷静にインターセプト。味方にパスを出すと見せかけ、今度はそのまま自身で切り込みシュート。ゴールネットを揺らす。試合終了の笛が鳴り響く。味方とハイタッチした後、2Fにいた慎司と華月に笑顔で手を挙げる。慎司はヒラヒラと加奈に手を振る。華月も微笑む。女子生徒から黄色い声が上がる。
「凄いね加奈ちゃん。」慎司は華月に言う。
「あぁ。中学の県大会準優勝はダテじゃない。」華月は微笑みながら、試合を見ていた。
「いたいた!もぅ!買い出しに行くって言ったきり帰って来ないと思ったら!」沙希は2人に話掛ける。マリアと鈴音もその後ろにいた。
「ヤバい。BBQよ。」周りの生徒達は騒ぎ出す。BBQ、誰が言い出したかはわからないが、華月達5人につけられたグループ名でB(美男)B(美女)Q(クオリティ)と教師でも知っている位、話題になっていた。
「戻ろうか。」慎司は華月に声を掛ける。華月達はビニール袋を手に持って自分の教室に向かう。3年生となり、華月達5人は運良く同じクラスになった。そんな事もあり、5人で行動する事も多く、他の生徒からBBQの愛称で親しまれていた。
「ねぇ、加奈。お兄さんて彼女いるの?」チームメイトは加奈に聞く。
「さぁ?聞いた事ないけど。」加奈は言う。
「あの中にいないの?マリアさんとか?」チームメイトは言う。
「マリアさんはお兄ちゃんにベッタリだけど、お兄ちゃんはそのつもりはないみたい。」加奈は苦笑いする。
「そうなんだ?お兄さんは運動は?」チームメイトは聞く。
「運動は苦手じゃないと思うけど、人並みかな。どっちかと言うと文化系よ、お兄ちゃんは。」加奈は答える。
「そうなんだ?アレで運動も出来たら、完璧過ぎるモンね。」別のチームメイトは言う。
「いいのよ。華月様はアレで。いいなぁ、華月様と一緒に暮らしているなんて...。」チームメイトはホゥと溜息をついた。
「ヤダ!華月様と慎司様がこっちに来るわよ!」別のチームメイトは加奈の後ろに隠れる。
「加奈、部活終わったら一緒に帰るか?」華月は言う。
「うん!」加奈は満面の笑みで言う。
「じゃあ、後で校門でな。」華月達はそう言うと、体育館を出て行った。
「カッコ良すぎる!」チームメイト達はキャッキャしている。
「加奈もあんなにカッコいい人達が側にいたら、彼氏なんか作る気にならないわよね。」チームメイトは言う。
「う、うん。」加奈は答える。実は加奈には付き合い始めた彼氏がいた。誰にも話してないが、男子バスケットボール部の八神 友里(やがみ ゆうり)と言う男の子で、加奈と同じくPGのポジションで、中学の県大会にも別の学校で参加していた。
中学バスケットボール県大会決勝戦。格上と思われたK中相手に、加奈達の学校は65対63で残り30秒まで勝っていた。ゴールを決められた相手は時間ギリギリまでボールを回し、残り3秒で3ポイントラインの外から、シュートを放つ。これが決まって逆転負け。全国大会を逃した加奈は涙にくれた。帰り道の階段で涙で前が見えなかった加奈は足を挫いて階段に座りこんでしまう。
「大丈夫?」すぐに男の子が来て加奈の足を見る。
「あ、だ、大丈夫です!」加奈は泣き顔を見られたくない一心で足を引っ込め様とする。
「動かないで!」男の子は加奈に言うと、すぐに自分のバッグから、冷却スプレーを取り出し、加奈の足にかけた。
「見た感じ、骨は大丈夫そうだけど、念の為医者に行ってね。」男の子は爽やかに笑う。
「あ、ありがとう...。」加奈は男の子に礼を言う。
「...君は、M中のPG。さっきの試合、凄くいい試合だったよ。最後は運が相手にあっただけ。君のゲームメイクは素晴らしいものだったよ。」男の子は言う。
「ック!ヒッ!ック...。」加奈は悔しさがまた込み上げて泣いた。
「泣かないで。本当にいい試合だったんだから。僕の名前は八神 友里。S中で君と同じPGをしていたんだ。僕の所も負けちゃったけどね。」友里は言いながら、加奈の背中をポンポンと優しく叩いた。
「どうしよう...。歩けそうにないよね。」友里は心配そうに言う。
「...ありがとう...。家族を呼ぶから平気。」加奈は言うと綾乃に電話した。
「綾乃でございます。」綾乃はすぐに電話に出た。
「あ、綾乃さん、実は足を挫いちゃって...。」加奈は申し訳なさそうに言う。
「今、どちらにいらっしゃいますか?」綾乃は聞く。
「総合スポーツセンターの入り口の階段のところに座ってる。」加奈は答える。
「承知いたしました。そのまま少しお待ち下さいませ。すぐに引き返します。」綾乃と華月は加奈の応援に来ていたが、試合が終わり仲間と最後のひと時を過ごすのだろうと、2人は気遣い先に帰路についていた。綾乃との電話を終えた加奈は、
「あ、家族が来てくれるから大丈夫。ホントにありがとう。」加奈は友里に言う。
「良かった。じゃあ、僕はこれで。」友里は荷物を持ち帰ろうとする。
「あ、待って。キチンとお礼がしたいから、ライン教えてくれる?」加奈はスマホを取り出す。
「お礼だなんて、大した事はしてないよ。」友里は微笑む。
「いいの。私がちゃんとお礼したいんだから。あ、それとも彼女がいてラインとかマズい?」加奈は聞く。
「彼女なんていないよ。バスケと受験勉強が忙しくてさ。」友里は手を振って話す。
「じゃあ、教えて。」加奈は自分のQRコードを友里に見せて笑う。お互いにラインの連絡先を交換をした。
「ありがとう。私は如月 加奈。連絡するね、友里くん。」加奈は言う。
「うん。ちゃんと、医者に行ってね。じゃあ。」友里は笑顔でそう言うと加奈に背を向け会場を後にした。暫くして、華月が加奈を迎えに来た。
「大丈夫か?」華月は加奈に聞く。
「お兄ちゃん!うん、親切な人がいてね。冷却スプレーまでしてくれて。」加奈は嬉しそうに言う。
「そうか。是非お礼をせねばな。車まで歩けそうか?」華月は聞く。
「多分...あ、痛っ!」加奈は足を動かそうとして、痛みが走った。
「無理はするな。」華月はそう言うと加奈をお姫様抱っこする。
「恥ずかしいよ。お兄ちゃん。」加奈はそう言うも嬉しそうに華月に抱きつく。
「兄弟で恥ずかしいも何もあるまい。」華月は歩き出す。
「ありがとうお兄ちゃん。意外に力持ちね。お兄ちゃん。」加奈は言う。
「まぁ、これくらいはな。」華月は加奈を抱き抱えたまま、綾乃の待つ駐車場まで歩いた。
それからというもの、加奈と友里はお互いに連絡を取り合う仲になり、バスケの話は勿論、受験の話、音楽の話などで次第に仲良くなっていった。高校も同じ所を受験する事になり、益々2人の仲は縮まった。2学期の始め、友里に告白された加奈はOKをした。それから2人は付き合う事になったのだ。
部室で着替えを済ませた加奈は、華月の待つ校門に向かう。
「お待たせ、お兄ちゃん。」加奈は華月に言う。
「あぁ。帰るか。」華月と加奈は駅に歩き出す。
「沙希ちゃん達は?」加奈は華月に聞く。
「沙希とマリアは買い足す物があるらしく、自転車で先に帰った。慎司と黒澤は2人で帰った。」華月は言う。
「BBQを独り占め出来ると思ったのに。」加奈は笑う。
「何か腹減ったな。」華月は笑う。
「そのBBQじゃないって。」加奈も笑う。
「知っている。美男、美女、クオリティだろ?」華月は言う。
「そう。お兄ちゃん達と仲良い事が私の自慢なんだから。」加奈は笑顔で言う。
「そりゃ、光栄だ。」華月は言う。ショッピングモールの前を通ると、加奈は声をかけられる。
「加奈ちゃん?」友里は加奈に言う。
「友里くん!買い物してたの?」加奈は友里に聞く。
「ちょっとテーピングをね。ご挨拶は初めてですね。初めましてお兄さん。八神 友里です。」友里は華月に頭を下げる。
「こちらこそ、初めまして。加奈の兄の如月 華月です。いつも妹がお世話になってます。」華月も頭を下げる。
「友里くんは、同じクラスで、男子バスケ部。私が中学の県大会の決勝の日に足挫いちゃって、冷却スプレーしてくれた人なんだよ。」加奈は華月に言う。
「君があの時の...。その節は妹が大変お世話になりました。君の迅速な対応のお陰で、妹は大事に至らずに済んだ。改めてお礼申し上げます。」華月は深々とお辞儀をする。
「や、やめて下さい。当たり前の事をしただけですから。駅までご一緒させて頂いても宜しいですか?」友里は華月に聞く。
「勿論だ。一緒に帰ろう。」華月は笑うと友里も笑った。3人は歩き出す。
「お兄さん、礼儀が半端ないね。」友里は加奈に言う。
「お兄ちゃんは小さい頃から、お婆ちゃんに華道を教わってたからね。染み付いちゃってるのよね?お兄ちゃん?」加奈は華月に言う。
「あぁ。その様だ。」華月は微笑む。
「夢みたいだ!憧れのBBQ華月先輩とこうしてお話出来るなんて!明日皆に自慢しよう。」友里は加奈に言う。
「なんか、また腹減ってきたな。」華月は言う。
「だから、そのBBQじゃないって!」加奈は笑うと3人共笑った。
「華月先輩のクラスは文化祭何をなさるんですか?」友里は華月に聞く。
「ウチは受験組も多いからな。手軽に笑劇桃太郎だ。」華月は言う。
「華月先輩は何の役なんですか?」友里は聞く。
「俺は裏方だよ。買い出し係。」華月は言う。
「お兄ちゃんいつもそうだよね。面倒くさがって裏方ばっかり。」加奈は笑う。
「そうなんですね。」友里も笑う。
「加奈と友里くんの所は何を?」華月は聞く。
「ウチは執事とメイド喫茶。」加奈は言う。
「あ、でも私と友里くんも部活の招待試合があるから、裏方だったw」加奈はベロを出す。
「2人共似合いそうだがな。」華月は笑う。
「当日少し着るよ。お兄ちゃんと友里くんと、沙希ちゃん達も呼んで写メ撮ろう!」加奈は言う。
「ホントに⁉︎めちゃくちゃ嬉しい!BBQと写メ撮れるなんて!待ち遠しいなぁ。」友里は喜んでいる。華月はそんな2人を見て微笑んでいる。
「華月先輩は進学されるんですか?」友里は話題を変える。
「いや、俺は家を継ぐ。」華月は答える。
「お兄ちゃんは如月流華道の家元で、日本華道連盟の副会長なのよ。」加奈は自慢気に言う。
「えっ⁈副会長って、2番目に偉い人だよね?」友里は加奈に聞く。
「そう。」加奈は満面の笑みで答える。
「まぁ、成り行きでな。」華月は友里に言う。
「あの、僕華道の事、あんまりよくわかんないんですけど、副会長も家元も、早々成れるものじゃないですよね?」友里は華月に聞く。
「家元に成るには資格がいる訳ではない。誰でも成れる。副会長は...、まぁ色々あってな。」華月は去年の品評会を思い出していた。
「誰でも成れるって...、嘘だよね?」友里は加奈に聞く。
「ホントよ。でも、お兄ちゃんは2歳位からずっと華道をやってて、もう亡くなっちゃったけど、人間国宝だったお婆ちゃんにその技を教わって、華を活けるのを1日たりとも休んだ事はないわ。」加奈は言う。
「...スゴい。華月先輩のカッコ良さって、その生き方と言うか、とにかく半端ない。」友里はキラキラと目を輝かせる。
「でしょ?自慢のお兄ちゃんなんだから!」加奈は言う。
「あんまり持ち上げるな。こそばゆい。」華月は言う。加奈も友里も笑った。そんなこんなで世間話をしつつ、k駅に着き3人は改札を通る。
「加奈ちゃん、華月先輩、色々ありがとうございました!僕こっちなんで。失礼します!」友里は頭を下げると、2人に手を振って華月達とは反対側のホームに行くエスカレーターに乗った。
「いい子じゃないか。」華月は加奈に言う。
「うん!あ、あのねお兄ちゃん。」加奈は少し躊躇した様に言う。
「何だ?」華月は聞く。
「実は私と友里くん、最近なんだけど、付き合う事になったんだ。」加奈は勇気を出して言う。
「そうなのか?いいじゃないか。加奈もお年頃だな。」華月は笑う。
「お兄ちゃん、お父さんみたい。」加奈も笑う。
「綾乃さんには?」華月は聞く。
「まだ話してない。お兄ちゃんが最初。何か言うの、ドキドキしちゃってさ。でも言ってみたら、意外に大丈夫だった。今日言うね。」加奈は笑顔で言う。
「ケーキでも買って帰るか?お祝いだな。」華月は笑う。
「ホント⁉︎ありがとうお兄ちゃん!」加奈は笑顔で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます