2.Nバーガー前にて

 店を出ると、外灯の灯りで分かり難いのだが、厚い暗さに包まれていた。


 サワは突然、Nバーガーの店の前でしゃがみ込み。いつものワガママを言い出した。


「疲れた。おぶって」


「やだ」


「いいじゃん。おぶってよ~」


 いつものお返しだと、ニヤニヤ笑いながら一人で帰ることにする。


 俺は、NOが言えない訳じゃない。YESマンではないからな。


「じゃぁな~、一人で帰るわ」


 マメオは、振り返ることもなく、その姿は見えなくなった。


 どうせ引き返して、戻ってくるんだろ。


 …五分経ったけど、戻ってこない。


 アイツ、本当に置いていきやがった。萎える、辛。


 花壇のブロックの縁に座り込んでいると、大学生くらいの男が、僕に向かって声をかける。


「君、どうしたの?彼氏君にフラれちゃった?」


「……」


「この辺りは危ないから、俺がボディーガードしてあげるよ。こう見えても、鍛えてるからさ。じゃぁ、行こうか」


 痛い、腕を掴まれた。


 ………怖い。


 僕は、他人が怖い。


 マメオや、身内の人間と喋る分には問題ない。だけど、それ以外の人間と関わるのが怖いんだ。


 体が震えて、力が抜けた。振りほどけない。


 だけどソイツは、僕の前に守るように現れた。


「俺のツレに何か用っすか?汚い手で触んないでください」


 男の手を振りほどき、僕の手を掴んだ。マメオの手からは、優しくて暖かい感触がする。触れられると安心した。


「チッ、彼氏持ちか。彼氏ならちゃんと見てないと、悪いお兄さんがいただいちゃうよ」


 ピアスの男は、捨て台詞を残しその場から離れていった。


「遅せーよ」


「悪い、行くぞ。乗れ」


 マメオは、背を向けて、しゃがんだ。


「あー、そうか。これ、腰に巻いとけ」


 上着を差し出され、疑問が浮かぶ。


「何で?」


「スカートだから」


「…ありがと」


 コイツの背中広いな、僕とは全然違う。


 少し気まずいこともあり。しばらく、無言が続いた。


 何か言わねばなと思い、口を開く。


「僕、お前のそういうとこ好きだぞ」


「そうか?」


「今日は、ごめん」


「何が?」


「調子に乗りすぎた」


「別に、いつものことだろ」


「明日からもよろしく」


「やだ」


「えーー何でだよ」


「そういえばさ」


「何?」


「俺、好きなひとできた」


「ハッ?!」


「その娘、お婆さんに手を貸して、横断歩道を歩いてた。それを見て、この人は素敵だなと」


「何だそれ、キモち悪いな」


「サワも、少しは見習った方がいいぞ」


「マメオのクセに調子乗んな」


 溜め息を吐きながら相槌を打つ。


「はいはい。すいませんね」


 胸がチクりとした。この感情は一体なんなのか、僕にはわからなかった。

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