3.四月病と新生活

 今日から新生活が始まるわけだけど、不安がないかと聞かれればないわけがない。


 しかし隣にはサワがいる。それならば、いつもと変わらない日常だと思える。


「今日から学校とか、ダルい。辛」


「入学初日からかよ」


 コイツはいつも通りだな。


「四月病だよ、四月病」


「サワは年中だろ」


「うっせー」


「お前の将来が心配だわ」


 キュルルーンといった可愛らしい表情で、サワは上目遣いで決めポーズ。


「僕、マメオに養ってもらう~」


「やだ」


「養え~」


 つい大きな溜め息が出る。こんな日常、いつまで続くのかな?と、嫌ではないのだ、嫌では。


 しかし大学生?社会人という風に分かれ道がある。その時、俺はコイツと、同じように接することができるのだろうか?


「サワは、見た目がいいんだから、芸能でも目指したら」


 何となく、俺はそう口にする。


 するとサワは、ふーんと興味がないように断り文句を語りだす。


「それって楽しいの?」


「キラキラ輝いてて、楽しいんじゃね?」


「思うんだけど、努力をして結果出せるとかなんか違うじゃん」


「はっ?」


「創作物の世界では、努力をすれば報われる。そんな話、みんな好きだよね」


「おう、俺も好き」


「でもさ、現実では努力をすれば報われる人もいるって話じゃん」


「そんなん言ったら、夢もへったくれもねぇぞ」


「だから、会社作ろうかなと」


「うっそだろお前」


 サワは、首を横に振り、否定の動作を取る。


「夢を応援できるような会社。で、お前副社長」


「思いつきで言ってない?」


 ジトーっとサワを見ると、顔を逸らした。やはり場当たり的な考えか。


「ってなことで、よろしくな相棒」


「就職先が見つからなかったら、考えとくわ。親から公務員に就くようずっと言われててな」


「マメオのクセに調子乗んな。僕を一人にするつもりか」


「そんな大袈裟な」


「約束しただろう、僕たちはずっと一緒だって」


「んー?あー、お化け屋敷でサワがビビって、俺に言ったセリフだな」


「ビビってない。ちょっと暗くて、不安だっただけだ」


 その時のことを思い出したようで、サワは顔を真っ赤にして涙ぐんでいた。


「ちょ、お前泣くなよ」


 ここは通学路である、つまり衆人環視の真っ只中。俺は、美少女?を泣かした極悪人として、入学初日から、噂が広まってしまった。


「マメオは、僕と一緒じゃ嫌なのか?」


 うるうるした目で、俺を見るな。


「嫌とかそんな話じゃなくてさ、未来のことなんてわからないだろ」


「へー」


「とりあえず、その顔で俺に迫るのは止めろ。俺が悪人みたいじゃないか」


「わかった、じゃあ、今日から勉強な」


 先程までの涙が嘘だったように、サワはけろっとした態度で切り替わった。


「なんでそうなる」


「場所は、学校の図書館で決定」


「俺、部活見に行きたいんだけど」


「んー?なら、新しい部活作ろうぜ」


 目をキラキラ輝かせて、サワは言う。


 コイツ無敵だなと、思い。サワがいれば高校生活も退屈することに困らない。そう予感せざるを得なかった。

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