あなたたちの来店を拒否します!できませんけど!

「みんな、心配かけたな! 今日は俺の奢りだ。なんでも好きなものを食って飲んで楽しんでくれ!」


 それから数日後。仕事ははやいらしい不知火我シラヌイガはダレンの逮捕が不当なものであることを認め、晴れてダレンは胸を張ってメートルの営業を再開した。

 今日はそのお祝いに常連客や知人を集めてパーティーが開催されている。みんなダレンのことを心配していたので大変な盛り上がりを見せている。


「あの人が無事に戻って来れてよかったわ。ありがとう、レイちゃん」

「いいえ。メリッサおばさんも高熱が治まったようでよかったです」


 賑わう店の端で全体を見渡していたレイチェルにメリッサが声をかけてきた。みんなの看病の甲斐もあり、熱は下がって体調は万全に戻ったようだ。ダレンが帰ってきて安心した、というのもあるのだろう。


「彼ともども迷惑かけたわね」

「そんなことないですよ。今の私がいるのはダレンおじさんたちの――ここにいるみんなのおかげですから」


 レイチェルは三年前に両親を亡くした。いい人たちだった。

 そんな人たちを急に二人も亡くし、ショックを受けないはずがない。

 食事がろくに喉を通らない日もあった。両親の死を思い出して涙を流した日もあった。しかしそれでも、毎日変わらぬ笑顔をレイチェルに向けてくれた人たちがここに集まっている。

 レイチェルをかわいがり、心から心配して、応援してくれる人たちが。


「私、この街にこれてよかった」

「……そう」


 両親の死は悲しいもので、なにをしても変えることのできない過去ではあるが、それでも新しい場所で素敵な人たちに出会えた。それは素直に喜んでいいことだろう。

 店内ではしゃぐダレンたちをどこか晴れやかに笑って見つめるレイチェルを見て、メリッサは頬を綻ばせた。


◇◇◇


 この料理は二番テーブルに。こっちの飲み物は一番テーブルに。

 間違いないように気をつけながらレイチェルはおぼんを手に指定のテーブルまで料理を運んだ。

 あれからすっかり通常営業に戻ったメートルのランチタイムは相変わらず大忙しだ。そろそろ本気で従業員を募集した方がいいかもしれない。


「姐さん! オムライスくれ!」

「三番テーブル、オムライス入りましたァ!」


 料理を届け、厨房に戻るついでに客が帰って空いた席の皿を片付けていると三番テーブルから注文が入る。

 レイチェルは店内に響き渡る大声でオーダーを取った。

 やけくそのように叫ぶレイチェルの気持ちに気がついているのかいないのか、三番テーブルに座る不知火我シラヌイガの隊員は嬉しそうに笑っていた。


「うう……私の自由気ままな無能力者ライフがぁ」


 通常営業に戻ったとはいったがあの事件以来変わったところもあり、なんとあの日以降不知火我シラヌイガの隊員たちがたまに昼食を食べにメートルに訪れるようになったのだ。

 国の人間とは極力関わりたくないという気持ちで気分が下がったレイチェルとは裏腹に、今日もメートルには不知火我シラヌイガの隊員を含む多くの客で賑わっていた。


◇◇◇


 警察が解決できなかった事件をたったの三日で解決した噂を聞きつけて、レイチェルに相談事を持ちかけてくる人物が現れるようになるのはまだ少し先のお話。

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隠れ賢者の不本意お悩み解決処 西條 迷 @saijou

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