捜査2

 マーナー夫婦から聞いた場所に、家に押し寄せてきたというチンピラの姿はあった。頭髪や背丈、特徴的な顔の傷を見るに彼で間違いないだろう。


 件のチンピラは他の仲間とグダグダと酒を飲んで駄弁っていた。

 マーナー夫婦のようにグレイの死にショックを受けている様子はない。

 その様子を壁から覗き込むようにして見ていたレイチェルはため息をついた。

 直感で犯人ではないと悟ったからだ。

 もちろんこれは賢者の力ではなく、ただのレイチェルの勘だ。しかしながら、レイチェルは夜は居酒屋を経営しているメートルで何人もの酔っ払いを見てきた。


 酒が入ると人はその本性を現す。不良の溜まり場で昨日口うるさいおっさんをぶん殴ってやった、なんてくだらない武勇伝を大声で語る人間に殺人なんてできるはずがない。そんな根性があるようには見えないし、もし故意ではなくて事故で殺してしまったとしても、もしそうなら今頃罪悪感に押しつぶされている頃だろう。こんな堂々と外で酒を飲んで下品に笑っていられるはずがない。


「と、なると他に怪しいのは……?」


 マーナー夫婦が犯人、というのはおそらく違うだろう。もしレイチェルの前で見せた涙や表情が演技だったとしたら、今すぐ農家ではなく役者に転職した方がいい。

 そしてなにより彼らには息子を殺す動機がない。


「ウィルダ・ユネス……」


 もう一人の遺体第一発見者。グレイの両親のマーナー夫婦の共同経営者で、マーナー夫婦曰く人柄のいい素敵な人。いちおうチンピラと同じくアリバイがある人間の一人だ。


「ウィルダさんのアリバイはバッチリだからなー」


 ウィルダはグレイが殺害されたとされている時間帯に、婚約者と高級なレストランに行っている。そしてその姿が店前のカメラにはっきりと残されていた。


「チンピラは友人と一緒にいたっていうアリバイだったから、友人がアリバイ作りに協力して嘘をついたのかと思ったんだけど……」


 ガハハ、と路地裏で大声で笑うチンピラたちが殺人を起こし、それを協力して隠蔽しようとしているとは思えない。

 第一発見者のマーナー夫婦、ウィルダではなく、金銭トラブルにあったチンピラでもない。となると、犯人候補が


「グレイは不良で、いろんなチンピラとの関わりがあったはず。ということはマーナー夫婦の家に押しかけてきたチンピラ以外とも金銭的なトラブルを抱えている可能性は高い」


 今回のグレイ殺害事件が金銭トラブルからの殺人となると、街中のチンピラ全員が容疑者ということになってしまう。

 これだけ大きいな街でそんな大勢のチンピラの当時のアリバイ探しなど、一週間で探しきれるはずがない。


「ああ、駄目。やだよ、もう日が落ちちゃう……」


 レイチェルは空を見上げてつぶやいた。周囲はとっくに薄暗くなっていた。

 一人の容疑者が白だとわかったが、その代わりに星のように数多の容疑者がいる可能性を見つけてレイチェルの貴重な一日目が終わった。

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