第81話 奪還(下)


 いきなり俺の上空にドラゴンが現れ、イルベがドロップキックによって倒される。

 何事が起こったんだ……!?

 よく見ると、ドラゴンは、フランリーゼとバハナムトだった。

 そして、なんとイルベを蹴り飛ばしたのは、うちの可愛い双子の娘だった。


「お、お前たち……助けにきてくれたのか……!」

「当然です、セカイ様」

「それにしても、よく場所がわかったな……」

「それは、双子様のおかげです」

「そうのか……?」


 俺は双子のほうを見やる。

 すると、俺に会えた喜びで、よほどうれしいのか、双子はにこにこ笑顔でこたえた。


「うん、そうだよ!私たち、ママがどこにいってもわかるんだよ!」

「それは、すごいな……。ありがとうな」

「当然だよ!ママがいるところなら、どこへでも飛んでいくよ!」


 俺たちは感動の再会に浸る。

 しかし、いつまでもそういうわけにもいかなかった。

 イルベが立ち上がり、こちらをにらみつける。


「くっくっく……助けがきたからといって、どうなるという状況でもありませんよ? みたところ、そちらには十分な戦力がととのっていないように見えますねぇ、ええ。そんな戦力で私たちからセカイ様を奪い返せるとでも? 甘い甘い、実に甘いですねぇ」


 イルベが合図すると、馬車の影から、ぞろぞろと他のエルドウィッチ教徒が姿を現した。みな魔法の杖を持っていて、魔法使いであるようだ。

 

「それはどうかな……!」


 フランリーゼがドラゴンブレスをはなつ。

 しかし、ドラゴンブレスは障壁に阻まれてしまい、イルベに到達する前に消滅した。


「なに!? ドラゴンブレスがきかない!?」

「ドラゴンか……。邪魔ですね……アブソリュートアブソーバー!!!!」


 すると、イルベの両手から、なにやら球体のような魔力が発射される。

 そしてそれらは、フランリーゼとバハナムトを捕らえた。


「ママが攫われた技だ……!」


 フランリーゼとバハナムトはなにやら球体に閉じ込められた。

 そして、その球体に、二人は体力と魔力を吸われたようで、どんどんと弱体化してしまう。


「うおおおおおなんだこれは……!」

「く、苦しい……!」


 球体の中で、二人は衰弱して、しゃがみ込んでしまう。

 そして、どうやらそのまま動けなくなり、球体に閉じ込められてしまったようだ。


「っく……すみませんセカイ様……」


 くそ、俺もなんとかしてやりたいが、俺の手足は封じられている。

 これをどうにか外せればいいんだが……。

 一緒についてきてくれたエルフが、俺の手足の枷を外そうとしてくれているが、なかなかうまくいかない。なにか特殊なものでできているのだろう。


「セカイ様、ここは私にお任せください」


 アラクネーのアリアが前に出る。

 そして、アリアは剣を取り出し、イルベに向かっていく。


「そうはさせるか……!」


 イルベを守るようにして、何人ものエルドウィッチ教徒が前に立ちはだかる。

 エルドウィッチ教徒は杖を使って魔法を放ったり、魔法で剣を出して、アリアに立ち向かう。

 しかし、アリアは圧倒的な手数で、それらをさばき、大量にいたエルドウィッチ教徒をあっという間に殲滅。

 すごい……!

 そしてついに、イルベに向かって攻撃を放つ……!


「お二人をはなしなさい……!」


 しかし、そのときだった。

 イルベは口を大きく開け――。


「ドラゴンブレス――!!!!」

「なに……!?それは、フランリーゼ様の……!?」


 イルベの口から放たれたドラゴンブレスによって、アリアの肉体はボロボロに焼かれてしまう。

 アラクネー、虫であるアリアにとって、炎はなによりもの天敵だった。

 エルドウィッチ教徒の撃ってきた小さな火球程度なら、剣でいなせたアリアだったが、ドラゴンブレスともなると、まさしく手も足もでない。

 アリアはその場で、丸焦げになって倒れてしまった。


「アリア……!!!!」


 そんな、あれほどまでに実力のある剣士であるアリアですらやられてしまうなんて……。どうすればいいんだ。ドラゴン二人もやられてしまったし、このままでは全滅だ……!

 すると、今度はドライアドの双子が俺の前に立ちはだかり、イルベと対峙した。


「まて、お前ら……! やめろ、あぶない……!」

「大丈夫だよ。ママはそこで見てて」


 ドライアドたちは、幼いながらも、真剣な表情で、まるでさっきまでのか弱いイメージとは一線を画している。


「ねえ、ママ。ママは私たちが大好き?私たちのこと信じてる?」


 急になにをきくんだと思うが、そんなのこたえは一つに決まっている。

 二人はまさしく俺の肉体から産まれた、血を分けた存在だ――植物に血があるとするならば。


「もちろんだ。大好きだよ。信じてるに決まってるだろ!世界で一番大好きだ!」

「よし。今ので信仰ポイントは十分たまったね」

「え……?」


 すると、二人は信仰メニューを開いた。


「はっはっは、なにをしようというのです? あなたたちのような小さな存在が、いまさらなにをできるというのです? あなたたちの主要戦力は散った! いさぎよく負けを認めたらどうですか?」


 イルベが余裕の表情で、高笑いする。

 しかしそんなことはおかまいなしに、双子は信仰メニューを操作する。

 なにをする気なんだこいつらは……。


「えい……! 建築メニューから、高層ビル……!」


 すると、信仰ポイントを消費して、二人が建築したのは高層ビルだった。

 しかも、二人はその高層ビルを――


 なんと、イルベの頭上に出現させたのだった。


「はっはっは……! なにをしているのです……? なにを――は……?」


 イルベは余裕の構えだったが、急に自分の足元に大きな影がさして、異変に気付く。

 イルベが上を見上げると、そこには彼にとっては未知の、巨大建築物があった。

 さっきまで余裕の表情でいたイルベだったが、その顔がひきつって、冷や汗を流す。


「ママをあぶない目に合わせたお前を、私たちは絶対にゆるさない。ママを私たちから奪った罪……! 死ね!」


 双子が手を振り降ろすと、空中に浮いていた高層ビルが、一気に落下する。

 イルベは咄嗟になにやら魔法を唱えていた。


「魔法障壁強化――!!!!」


 しかし、その抵抗もむなしく――。

 イルベは魔法障壁ごと、巨大ビルに押しつぶされた。


 ――ズドーン!!!!

 ――グシャ!!!!


 すごい……。

 まさか、建築メニューにこんな使い方があったなんて……。俺には思いつかなかった。ていうか、こんなめちゃくちゃ、ありなのか?

 さすがは、俺の娘だ。


「すげぇ……」

「やった……!」

「ほんと、ありがとうなぁ……。お前たち……」


 すぐさま俺は二人に抱き着いた。

 それから、みんなで苦労して俺の足枷を解いた。

 それと、アリアの傷を治療した。

 んで、みんなでドラゴンに乗って、帰った。


 エルドウィッチ教、またしても俺たちに牙を剥くなんて――。

 やつらはいったい、なにが目的なのだろう。

 まだやつらの本体をつぶしたわけではなさそうだ。

 これからも、注意を光らせたい。

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