第80話 奪還(上)


 それは、ココロとセツナ、双子のドライアドたちの目の前で、突然起こった。

 

「アブソリュート・アブソーバー!!!!」

 

 突然そのような声がきこえたと思えば、目の前にいたセカイの姿が消えていた。

 セカイはなにやら球体のような魔力にとらえられ、まるで魚が釣り竿で釣られるかのように、捕獲された。

 セカイを魔法で捕獲したのは、黒ずくめの男だった。髪の毛は白髪の長髪で、目は赤く、片方の目には傷がついている、隻眼の魔術師だ。

 男は、気を失っているセカイを抱き寄せると、その場を去ろうとした。

 しかし、その場にいたエルフが当然、それを許すはずがない。


「待ちなさい……!」


 エルフが魔法を放つが、男はそれを避けることもしない。

 魔法はなにやら障壁に阻まれて、男に当たるまえに消滅した。

 逆に、今度は男が魔法を放つ。男の魔法はエルフに当たり、エルフは世界樹の根本まで吹き飛ばされ、世界樹にぶち当たり、気絶した。


「きゃ……!」


 そして他のものが攻撃を仕掛ける暇もなく、男は瞬時に去ってしまった。

 まだ幼い双子は、どうしたらいいかわからずに、その光景をただ見ていることしかできなかった。

 なにが起こったのか、あまりにものことで、二人はわけがわからず、泣き出してしまう。


「うえええええええええええん」

「ママが連れていかれたよおおおおおお」


 そばにいた他のエルフも、どうしていいかわからず、ただ二人を抱きしめることしかできないでいた。

 それからしばらく経ってから――。

 べへモスを倒し、ドラゴンたちが戻ってきた。

 フランリーゼがまず、セカイの不在に気づいた。


「セカイ様は……!? セカイ様の気配がどこにもありません! いったいなにがあったというのです!?」

「すみません、セカイ様は、なにものかに連れ去られてしまったのです……。私たちがついていながら……申しわけないです……」

「そんな……! セカイ様が……! セカイ様をお守りするのが我々の役目だというのに……! っく……恥を知れといいたいところだが、今はお前たちをせめるよりも、セカイ様を見つけ出すことが先だ」


 フランリーゼとエルフの会話に、ゴブリンが口を挟む。


「ちょっと待て、セカイ様の本体はこの世界樹だろう? あれはあくまで分身のはずだ。分身を解除すれば、連れ去られていても、戻ってこられるんじゃないのか?」


 しかし、エルフがそれに首を振って否定で応える。


「いいえ、先ほどから、世界樹の本体に呼びかけているのですが、反応がありません。おそらくセカイ様は、なにかの力によって、分身を解除することを封じられているのでしょう。魔法で、そのくらいのことはよういにできると思います」

「そんな……それじゃあ……セカイ様をどうやって取り戻すんだ」


 そのときだった。

 先ほどまで泣いてばかりいた双子が、泣きはらした目で、なにかを訴える。

 二人は大人たちのもとにやってきてこういった。


「私たち、ママの居場所、わかるよ!」

「え……? それは本当ですか?」

「うん、ママのいる方向が感じられるの。私たちはママから産まれたんだから、当然」

「だったら……! よし、私と一緒にセカイ様を取り返しにいきましょう!」

「うん……!」

「私たち、ママを連れ去ったやつら、絶対にゆるせない……!」


 こうして、フランリーゼは双子を連れて、ユグドラシル王国を旅立つことになったのだ。

 フランリーゼがココロを背中に乗せ、バハナムトがセツナを乗せる。

 それから、それだけでは戦力的に心もとないので、他のドラゴンも何体かついてくることになった。

 アラクネーのアリアも、ドラゴンの背中に乗って、一緒についてくる。

 他のメンバーはユグドラシル王国に残り、帰りを待つ。

 セカイが攫われてしまったことを教訓に、ユグドラシル王国にもある程度の戦力は残しておくべきだということになったのだ。

 本来ならば、「全勢力をもって、セカイ様をさらったふとどきなやつらをぶちのめしましょう!」と、みな言ったのだが、やはりユグドラシル王国をもぬけの殻にするわけにはいかないと、冷静な結論がもたらされた。

 あくまで、セカイの本体はこの世界樹なのだから。

 もしここでユグドラシル王国の戦力が薄くなって、今度はその隙に本体を狙われるということも考えられる。もしそれが相手の策略なのだとしたら、最悪だ。そうならないためにも、セカイの奪還には少数精鋭で挑むことになった。

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